研究支援施設

研究チーム紹介

健康長寿ゲノム探索研究

 

メンバー

リーダー:
研究部長 井上聡
研究員:
東 浩太郎、高山 賢一

キーワード

エストロゲン、アンドロゲン、核内受容体、骨粗鬆症、ロコモティブ症候群、メタボリック症候群、ミトコンドリア、ホルモン依存性がん、非コードRNA、ビタミンK、次世代シーケンサー

主な研究

1.性ホルモンと加齢性疾患
A)アンドロゲン・エストロゲンとロコモティブ症候群
B)ホルモン依存性がんにおけるゲノム・エピゲノム・非ゲノム作用解析
2.ビタミンと加齢性疾患
A)ビタミンKとロコモティブ症候群
B) γグルタミルカルボキシラーゼおよびSXRの生体と病態での役割
3. 老年病とがんの診断・治療標的の探索・同定と機能の解明
 

研究紹介

 私たちの研究室では、核内受容体の転写制御の視点を中心に据え、老化ならびに、高齢者の運動器をはじめとする各種疾患、高齢者に多い前立腺がん、発症年齢が高齢化しつつある乳がんの病態メカニズムを解明し、新たな予防法・治療法につながる研究を行っています。特に、それぞれ男性・女性ホルモンであるアンドロゲンとエストロゲンに加え、脂溶性ビタミンとしてビタミンKに着目し、新しい生命現象の解明を目指しています。

1. 性ステロイドホルモンと加齢性疾患
A)アンドロゲン・エストロゲンとロコモティブ症候群

 年齢と共に、性ステロイドホルモンであるアンドロゲン・エストロゲンの分泌が減ってくることは良く知られています。一方で、高齢者に対するアンドロゲンやエストロゲンの補充療法により、改善される加齢性の表現型も存在し、性ステロイドホルモンの低下が老化の一部を担っているという側面もあると考えられます。従って、性ステロイドホルモンの作用の仕組みを解明することにより、老化のメカニズムを説き明かし、加齢性疾患の予防および治療に生かすことができるのではと私たちは考えています。
 転倒・骨折・関節疾患など運動器の障害は、高齢者の要介護の原因の23.2%にのぼり(平成27年高齢者白書)、脳卒中や認知症(いずれも20%以下)を超える要因となっています。従って、骨粗鬆症、変形性関節症、サルコペニアなどを含むロコモティブ症候群の予防・治療により、健康寿命をより実際の寿命に近づけることができると考えられます。
 エストロゲンは、骨折抑制効果が大規模臨床試験で証明されており、選択的エストロゲン受容体モジュレータ(SERM)が骨粗鬆症の治療薬として臨床現場で使用されています。また、アンドロゲンの骨格筋に対する効果もよく知られています。エストロゲンの筋肉に対する効果はまだ確立されていませんが、私たちはミトコンドリアにおける超複合体形成を制御するCOX7RPがエストロゲンの標的遺伝子であることを発見しており、筋代謝への関与も推測されます。私たちの研究室では、これらの性ステロイドホルモンの転写調節作用メカニズムと標的因子の役割を次世代シーケンサー・質量分析器などを用いた最新の手法で解析し、抗老化および骨保護・筋保護メカニズムの解明およびたな予防・治療標的の発見を目指しています。

B)ホルモン依存性がんにおけるゲノム・エピゲノム・非ゲノム作用解析

 私たちは、性ステロイドホルモンに依存した増殖を示すホルモン依存性がんを研究対象としています。高齢者に多い前立腺がんは、男性ホルモンであるアンドロゲンにより増殖が促され、乳がんの多くは女性ホルモンにより増殖します。それぞれ、国内で1万人以上のがん死亡者数となっており、前立腺がんは高齢者に多く発症すること、また乳がんに関しては、発症する患者さんの平均年齢が我が国で上昇していることが問題となっています。性ステロイドホルモンのシグナルを遮断する薬剤は、前立腺がんや乳がんの内分泌療法に用いられていますが、使用中に治療が効かなくなること、すなわち耐性化の問題など臨床的に克服すべき課題に対する対策が急務です。性ステロイドホルモンの作用のしくみを解明することは、これらのがんの病態解明や新たな診断・治療法の開発に役に立つと考えられます。私たちは、次世代シーケンサーやプロテオミクスの手法を活用することにより、前立腺がんにおける新たなアンドロゲン応答遺伝子とそのがん増殖における役割や、長鎖および短鎖非コードRNAの誘導とそれらによるエピゲノム制御(図1)、乳がんにおける新たなエストロゲン応答遺伝子(図2)に加え、非ゲノミック作用(図3)など多彩な性ステロイドホルモンの新規作用を発見しており、これらを手掛かりにさらに研究を進め、臨床応用を目指します。

2. ビタミンと加齢性疾患
A)ビタミンKとロコモティブ症候群

 私たちは、性ステロイドホルモンの研究手法を応用して、ビタミンの抗加齢作用の解明も目指しています。中でもビタミンKの作用の解明に力を入れています。ビタミンKは納豆や緑黄色野菜に含まれるビタミンで、血液が固まるために必要なビタミンですが、ビタミンKの摂取が多いと骨折しにくいことが明らかとなり、現在では骨粗鬆症の治療薬としても用いられています。また、疫学研究からは、ビタミンK摂取が多いと変形性関節症になりにくいことが示されており、ビタミンKのロコモティブ症候群全般に対する保護効果が推測されます。 ビタミンKの作用は、凝固因子の活性化に代表されるようなγカルボキシラーゼ(GGCX)の補酵素としての役割が古くから知られていましたが、私たちは、核内受容体SXRがビタミンKをリガンドとするという全く異なる作用を発見し、提唱してきました(図4)。SXRの欠損マウスは、骨量減少および関節軟骨の菲薄化をきたし、SXRを介するビタミンKの作用が、骨保護・関節保護作用に寄与していることが考えられました。このような研究を発展させ、ビタミンKが骨を丈夫にするより詳細なメカニズムや関節疾患の予防の可能性、サルコペニアとの関わりについて研究を行っています。

B)γグルタミルカルボキシラーゼおよびSXRの生体と病態での役割

 古くから知られているビタミンKの作用であるγカルボキシラーゼ(GGCX)の補酵素としての役割を解析するために、GGCXを欠損させたマウスを作製すると、出血のため胎生期および生後早期に死亡することが報告されており、加齢性の疾患の解析には適さないことが分かっています。このため、私たちは独自に臓器特異的にGGCXを欠損したマウスを作製し、解析に用いて来ました。この中から、骨芽細胞特異的にGGCXを欠損させても、骨は弱くならないという興味深いことが分かってきており、GGCXの生体内での実際の作用はさらなる研究が必要であることが示唆されました。また、骨芽細胞特異的なGGCX欠損マウスでは、インスリンの感受性が高くなっており、糖代謝に対する影響があることが分かりました。GGCXおよびSXRの遺伝子改変動物を活用することにより、生体内でのビタミンKの多彩な作用の解明を目指して、研究に取り組んでいます。

3. 老年病とがんの診断・治療標的の探索・同定と機能の解明

 私たちはこれまで、ヒトの血液・尿サンプルおよび臨床データを用いて、老年病や加齢性疾患、とくにロコモティブ症候群とメタボリック症候群に注目して、それらの指標に関連のあるバイオマーカーや遺伝子マーカーをゲノムワイドな手法等を活用して探索・同定してきました。たとえば、メタボリック症候群とロコモティブ症候群を結びつける血中で測定できるスクレロスチン等のバイオマーカー、ならびに、脂肪量と関連するSLC25A24、サルコペニアに関連するPRDM16、骨密度に関連するGPR98などのゲノムマーカーを見出して、その機能、診断・治療における役割とともに報告しております。さらに、高齢者にみられるがんについては、乳腺外科、婦人科、泌尿器科などの病院医師らと協力しながら、臨床サンプルの収集・解析から病態を特徴づける新たな因子やメカニズムを発見し、診断・治療の標的としての応用を目指しています。

主要文献

  1. Obinata D, Takayama K, Fujiwara K, Suzuki T, Tsutsumi S, Fukuda N, Nagase H, Fujimura T, Urano T, Homma Y, Aburatani H, Takahashi S, Inoue S: Targeting Oct1 genomic function inhibits androgen receptor signaling and castration-resistant prostate cancer growth. Oncogene (in press)
  2. Takayama K, Misawa A, Suzuki T, Takagi K, Hayashizaki Y, Fujimura T, Homma Y, Takahashi S, Urano T, Inoue S: TET2 repression by androgen hormone regulates global hydroxymethylation status and prostate cancer progression. Nat Commun 6, 8219, 2015.
  3. Azuma K, Shiba S, Hasegawa T, Ikeda K, Urano T, Horie-Inoue K, Ouchi Y, Amizuka N, Inoue S: Osteoblast-specific γ-glutamyl carboxylase-deficient mice display enhanced bone formation with aberrant mineralization. J Bone Miner Res 30, 1245-1254, 2015.
  4. Urano T, Shiraki M, Sasaki N, Ouchi Y, Inoue S: SLC25A24 as a novel susceptibility gene for low fat mass in humans and mice. J Clin Endocrinol Metab 100, E655-E663, 2015.
  5. Takayama K, Suzuki T, Tsutsumi S, Fujimura T, Takahashi S, Homma Y, Urano T, Aburatani H, Inoue S: Integrative analysis of FOXP1 function reveals a tumor suppressive effect in prostate cancer. Mol Endocrinol 28, 2012-2024, 2014.
  6. Takayama K, Suzuki T, Fujimura T, Urano T, Takahashi S, Homma Y, Inoue S: CtBP2 modulates the androgen receptor to promote prostate cancer progression. Cancer Res 74, 6542-6553, 2014.
  7. Urano T, Shiraki M, Sasaki N, Ouchi Y, Inoue S: Large-scale analysis reveals a functional single-nucleotide polymorphism in the 5'-flanking region of PRDM16 gene associated with lean body mass. Aging Cell 13, 739-743, 2014.
  8. Takayama K, Horie-Inoue K, Katayama S, Suzuki T, Tsutsumi S, Ikeda K, Urano T, Fujimura T, Takagi K, Takahashi S, Homma Y, Ouchi Y, Aburatani H, Hayashizaki Y, Inoue S: Androgen-responsive long noncoding RNA CTBP1-AS promotes prostate cancer. EMBO J 32, 1665-1680, 2013 and highlighted in “Have you seen?” pp.1653-1654.
  9. Ikeda K, Shiba S, Horie-Inoue K, Shimokata K, Inoue S: A stabilizing factor for mitochondrial respiratory supercomplex assembly regulates energy metabolism in muscle. Nat Commun 4, 2147, 2013.
  10. Takayama K, Horie-Inoue K, Suzuki T, Urano T, Ikeda K, Fujimura T, Takahashi S, Homma Y, Ouchi Y, Inoue S: TACC2 is an androgen-responsive cell cycle regulator promoting androgen-mediated and castration-resistant growth of prostate cancer. Mol Endocrinol 26, 748-761, 2012 and highlighted in “Editorial” p.715.
  11. Murata T, Takayama K, Urano T, Fujimura T, Ashikari D, Obinata D, Horie-Inoue K, Takahashi S, Ouchi Y, Homma Y, Inoue S: 14-3-3ζ, a novel androgen-responsive gene, is upregulated in prostate cancer and promotes prostate cancer cell proliferation and survival. Clin Cancer Res 18, 5617-5627, 2012.
  12. Urano T, Shiraki M, Ouchi Y, Inoue S: Association of circulating sclerostin levels with fat mass and metabolic disease-related markers in Japanese postmenopausal women. J Clin Endocrinol Metab 97, E1473-E1477, 2012.
  13. Urano T, Shiraki M, Yagi H, Ito M, Sasaki N, Sato M, Ouchi Y, Inoue S: GPR98/Gpr98 gene is involved in the regulation of human and mouse bone mineral density. J Clin Endocrinol Metab 97, E565-E574, 2012.
  14. Takayama K, Tsutsumi S, Katayama S, Okayama T, Horie-Inoue K, Ikeda K, Urano T, Kawazu C, Hasegawa A, Ikeo K, Gojyobori T, Ouchi Y, Hayashizaki Y, Aburatani H, Inoue S: Integration of cap analysis of gene expression and chromatin immunoprecipitation analysis on array reveals genome-wide androgen receptor signaling in prostate cancer cells. Oncogene 30, 619-630, 2011.
  15. Takayama K, Tsutsumi S, Suzuki T, Horie-Inoue K, Ikeda K, Kaneshiro K, Fujimura T, Kumagai J, Urano T, Sakaki Y, Shirahige K, Sasano H, Takahashi S, Kitamura T, Ouchi Y, Aburatani H, Inoue S: Amyloid precursor protein is a primary androgen target gene that promotes prostate cancer growth. Cancer Res 69, 137-142, 2009.
  16. Azuma K, Urano T, Horie-Inoue K, Hayashi S, Sakai R, Ouchi Y, Inoue S: Association of estrogen receptor α and histone deacetylase 6 causes rapid deacetylation of tubulin in breast cancer cell. Cancer Res 69, 2935-2940, 2009.
  17. Gack MU, Shin YC, Joo CH, Urano T, Liang C, Sun L, Takeuchi O, Akira S, Chen Z, Inoue S, Jung JU: TRIM25 RING-finger E3 ubiquitin ligase is essential for RIG-I-mediated antiviral activity. Nature 446, 916-921, 2007.
  18. Ichikawa T, Horie-Inoue K, Ikeda K, Blumberg B, Inoue S: Steroid and xenobiotic receptor SXR mediates vitamin K2-activated transcription of extracellular matrix-related genes and collagen accumulation in osteoblastic cells. J Biol Chem 281, 16927-16934, 2006, Cover, and highlighted in “Paper of this week”.
  19. Ogushi T, Takahashi S, Takeuchi T, Urano T, Horie-Inoue K, Kumagai J, Kitamura T, Ouchi Y, Muramatsu M, Inoue S: Estrogen receptor-binding fragment-associated antigen 9 is a tumor-promoting and prognostic factor for renal cell carcinoma. Cancer Res 65, 3700-3706, 2005.
  20. Urano T, Saito T, Tsukui T, Fujita M, Hosoi T, Muramatsu M, Ouchi Y, Inoue S: Efp targets 14-3-3σ for proteolysis and promotes breast tumour growth. Nature 417, 871-875, 2002.

Copyright(C)東京都健康長寿医療センター All Rights Reserved.