研究支援施設

研究チーム紹介

運動器医学研究

 

メンバー

リーダー:
研究部長  重本和宏
専門副部長:
上住聡芳
研究員:
森 秀一、本橋 紀夫、上住円、水之江 雄平
非常勤研究員:
高嶋留美
協力研究員:
宮崎剛(センター整形外科)
研究生:
大学院修士過程1名

キーワード

サルコペニア、フレイル、早期診断、バイオマーカー、筋萎縮、筋無力症、神経筋シナプス、運動神経細胞、間葉系前駆細胞、筋衛星細胞、脂肪化・線維化、代謝変換

主な研究

1. 筋萎縮に関する研究
(1) 筋萎縮の分子メカニズムの解明
(2) 筋と神経の相互維持システムの解明
(3) 筋萎縮の予防、診断、治療に関する研究

研究紹介

1.筋萎縮に関する研究
サルコペニアと超高齢社会

 超高齢社会を既に迎えた日本において、高齢患者の運動障害の軽減と、家族等の介護負担の軽減は社会的に強い要請のある課題です。運動機能低下(筋萎縮)と認知症の間には、明確な因果関係が認められます。身体機能の著しい障害として筋萎縮に至るサルコペニア(加齢性筋肉減少症)は未だ原因不明であり、精神疾患と同様に多数の遺伝・環境因子が関与しています。サルコペニアの特徴は加齢による筋肉量低下と筋力低下ですが、実際に臨床や介護現場で有効に役立てることができる定義と診断基準のいずれについても確立されていないのが現状です。

現在、認知症は多くの病型に分類することができますが、サルコペニアも多様な原因により筋萎縮へ収束する病態の集合群であり、まだそれを単一の概念で捉えているのでしょう。

サルコペニアの成因

 サルコペニアに関するこれまでの研究から、加齢による筋の老化促進の要因は以下の三種類に分類することができます。

体内環境全体の変化(免疫・炎症、ホルモン、代謝・栄養状態)、そして幹細胞(サテライト細胞)とそれを維持する微少環境(ニッチ)の老化、さらに筋と運動神経細胞(中枢神経)の相互作用維持システムの老化です。実際には、これらの原因がお互いに影響しあうことでサルコペニアが進行すると考えられます。私たちはこの三つの要因メカニズムについて研究を行っています。

筋と運動神経の相互維持メカニズム

 もともと健常筋には萎縮へと向かうカスケードが常在しています。若い健常人であっても骨折などで筋活動が停止すると、2週間以内で急速に筋萎縮に至ります。適切な運動習慣により、運動神経線維と筋のつなぎ目である神経筋シナプスを介した筋と運動神経の相互作用システムが、萎縮カスケードに拮抗することで筋と運動神経の両方が保持されています。しかし、サルコペニア、廃用性筋萎縮、外傷による神経損傷、神経筋難病などの原因により運動神経と筋の相互維持メカニズムが阻害されると筋萎縮が誘導されます。筋は均一な細胞の集団ではなく、速筋、遅筋および中間型筋があり加齢や神経筋疾患で変化します。運動神経細胞も、体幹の筋、四肢の筋を支配する細胞で形態だけでなく機能も異なることがわかっています。高齢になると神経筋シナプスの形態と機能が変化して筋と運動神経細胞の間の相互維持シグナルが低下すると考えられます。

この相互作用の分子メカニズムは未だよくわかっていませんが、私達は超解像度顕微鏡を使い神経筋シナプスの運動神経終末側部(前膜)にあるアクティブゾーンと呼ばれる領域に存在する蛋白の構造が加齢により変化がすることを発見しました。アクティブゾーンからは神経伝達物質が分泌されますが、同じアクティブゾーン蛋白分子が脳内のシナプスでも存在することから、認知症のメカニズムとの関連性が今後注目されます。

MuSK蛋白に対する自己抗体は筋と運動神経の相互維持を障害する

 私達は神経筋シナプスの相互作用が自己抗体で障害されて起きる重症筋無力症(神経筋難病)についても研究を行なっています。高齢社会を背景に重症筋無力症の患者数が我が国でも増加していることが,2006年に実施された厚生労働省の免疫性神経疾患に関する調査で明らかにされました。18年前の全国調査に比べ総数で2.5倍(いずれも推定で6,000人から1万5,100人へ)、10万人当たりの有病率も5.1人から11.8人へと増えています。欧米でも1990年代になってから、50歳以上の年代で予想されたよりも多くの患者が見つかるようになりました。2005年には長野県で25年前に比べ、65歳以上の患者の罹患率が10〜15倍に増加していることが報告されたのをはじめ、デンマーク、イタリア、ギリシャなどでも同様の報告がなされています。
 私たちは、神経筋シナプスの後膜に発現しているMuSK(muscle-specific kinase)蛋白の機能が自己抗体で障害されると重症筋無力症(myasthenia gravis:MG)を発症することを世界ではじめて示しました。MuSKの機能はそれが発現している筋側のシナプスだけでなく運動神経終末まで及び、シナプス全体の構造と機能を維持するために必要なシグナルのやりとりにMuSKが必要であることを明らかにしています。

幹・前駆細胞から見る筋の老化

 骨格筋には筋衛星細胞と呼ばれる骨格筋系譜の幹細胞が存在します. 筋衛星細胞は筋が損傷を負った際に、新たに筋線維を生み出すことができる筋再生に必須の細胞です。老化すると筋損傷からの治りが悪くなりますが、その原因の一つとして筋衛星細胞の数の減少があげられます。老化筋衛星細胞の遺伝子発現プロファイルを元に、加齢に伴う筋衛星細胞数減少の分子メカニズム解明に取り組んでいます。
 筋衛星細胞は筋損傷の際には必須となるのですが、損傷を負っていない普通の状態では筋組織の維持に必要ないことが分かってきています。私たちは筋衛星細胞とは異なる間葉系前駆細胞を筋組織の間質に発見しました。間葉系前駆細胞は筋の脂肪化や線維化の元となる細胞であり、筋の病的変性を防ぐ上で重要になります。老化すると筋の脂肪化や線維化が亢進すると言われているため、間葉系前駆細胞を制御し、脂肪化・線維化を抑制する研究も行っています。
 間葉系前駆細胞は健康な筋にも存在しますが、通常は脂肪化・線維化を引き起こしません。最近、間葉系前駆細胞が普通の状態の筋組織の維持に非常に重要であることを明らかにしています。間葉系前駆細胞のこの特性は、サルコペニア発症の根幹に関与すると考えられ、間葉系前駆細胞に焦点を当てることによるサルコペニアのメカニズム解明、および、予防・治療法開発を目指した研究を推進します。

サルコペニアに対する我々の取り組み

 現在の医学では完全に萎縮した筋を回復させることは不可能で、筋萎縮の診断法、予防法および治療法を開発し認知症との関連を含めて革新的な医療の創成が求められています。私たちは、筋萎縮の病態が出現する初期段階で可逆的な病変があると予想して、そのメカニズムの研究を進めています。さらに、病変がドミノ倒しのように不可逆的に進行して筋萎縮に至る前に、早期診断が出来る方法と新たな治療法の開発を行なっています。

主要文献

  1. Nishimune, H., Badawi, Y., Mori, S., Shigemoto, K., 2016. Dual-color STED microscopy reveals a sandwich structure of Bassoon and Piccolo in active zones of adult and aged mice. Sci Rep 6, 27935.
  2. Uezumi, A., Nakatani, M., Ikemoto-Uezumi, M., Yamamoto, N., Morita, M., Yamaguchi, A., Yamada, H., Kasai, T., Masuda, S., Narita, A., Miyagoe-Suzuki, Y., Takeda, S., Fukada, S., Nishino, I., Tsuchida, K., 2016. Cell-Surface Protein Profiling Identifies Distinctive Markers of Progenitor Cells in Human Skeletal Muscle. Stem Cell Reports 7, 263-278.
  3. Shigemoto, K., Motohashi, N., Mori, S., 2015. Metabolic plasticity in sarcopenia. The Journal of Physical Fitness and Sports Medicine 4, 347-350.
  4. Phillips, W.D., Christadoss, P., Losen, M., Punga, A.R., Shigemoto, K., Verschuuren, J., Vincent, A., 2015. Guidelines for pre-clinical animal and cellular models of MuSK-myasthenia gravis. Experimental neurology 270, 29-40.
  5. Ikemoto-Uezumi, M., Uezumi, A., Tsuchida, K., Fukada, S., Yamamoto, H., Yamamoto, N., Shiomi, K., Hashimoto, N., 2015. Pro-Insulin-Like Growth Factor-II Ameliorates Age-Related Inefficient Regenerative Response by Orchestrating Self-Reinforcement Mechanism of Muscle Regeneration. Stem Cells 33, 2456-2468.
  6. Uezumi, A., Ikemoto-Uezumi, M., Tsuchida, K., 2014. Roles of nonmyogenic mesenchymal progenitors in pathogenesis and regeneration of skeletal muscle. Front Physiol 5, 68.
  7. Uezumi, A., Fukada, S., Yamamoto, N., Ikemoto-Uezumi, M., Nakatani, M., Morita, M., Yamaguchi, A., Yamada, H., Nishino, I., Hamada, Y., Tsuchida, K., 2014. Identification and characterization of PDGFRalpha+ mesenchymal progenitors in human skeletal muscle. Cell Death Dis 5, e1186.
  8. Mori, S., Shigemoto, K., 2013. Mechanisms associated with the pathogenicity of antibodies against muscle-specific kinase in myasthenia gravis. Autoimmunity reviews.
  9. Mori, S., Yamada, S., Kubo, S., Chen, J., Matsuda, S., Shudou, M., Maruyama, N., Shigemoto, K., 2012. Divalent and monovalent autoantibodies cause dysfunction of MuSK by distinct mechanisms in a rabbit model of myasthenia gravis. Journal of neuroimmunology 244, 1-7.
  10. Mori, S., Kubo, S., Akiyoshi, T., Yamada, S., Miyazaki, T., Hotta, H., Desaki, J., Kishi, M., Konishi, T., Nishino, Y., Miyazawa, A., Maruyama, N., Shigemoto, K., 2012. Antibodies against muscle-specific kinase impair both presynaptic and postsynaptic functions in a murine model of myasthenia gravis. The American journal of pathology 180, 798-810.
  11. Mori, S., Kishi, M., Kubo, S., Akiyoshi, T., Yamada, S., Miyazaki, T., Konishi, T., Maruyama, N., Shigemoto, K., 2012. 3,4-Diaminopyridine improves neuromuscular transmission in a MuSK antibody-induced mouse model of myasthenia gravis. Journal of neuroimmunology 245, 75-78.
  12. Uezumi, A., Ito, T., Morikawa, D., Shimizu, N., Yoneda, T., Segawa, M., Yamaguchi, M., Ogawa, R., Matev, M.M., Miyagoe-Suzuki, Y., Takeda, S., Tsujikawa, K., Tsuchida, K., Yamamoto, H., Fukada, S., 2011. Fibrosis and adipogenesis originate from a common mesenchymal progenitor in skeletal muscle. J Cell Sci 124, 3654-3664.
  13. Uezumi, A., Fukada, S., Yamamoto, N., Takeda, S., Tsuchida, K., 2010. Mesenchymal progenitors distinct from satellite cells contribute to ectopic fat cell formation in skeletal muscle. Nat Cell Biol 12, 143-152.
  14. Shigemoto, K., Kubo, S., Mori, S., Yamada, S., Akiyoshi, T., Miyazaki, T., 2010. Muscle weakness and neuromuscular junctions in aging and disease. Geriatr Gerontol Int 10 Suppl 1, S137-147.
  15. Shigemoto, K., Kubo, S., Jie, C., Hato, N., Abe, Y., Ueda, N., Kobayashi, N., Kameda, K., Mominoki, K., Miyazawa, A., Ishigami, A., Matsuda, S., Maruyama, N., 2008. Myasthenia gravis experimentally induced with muscle-specific kinase. Ann N Y Acad Sci 1132, 93-98.
  16. Ohta, K., Shigemoto, K., Fujinami, A., Maruyama, N., Konishi, T., Ohta, M., 2007. Clinical and experimental features of MuSK antibody positive MG in Japan. Eur J Neurol 14, 1029-1034.
  17. Shigemoto, K., Kubo, S., Maruyama, N., Hato, N., Yamada, H., Jie, C., Kobayashi, N., Mominoki, K., Abe, Y., Ueda, N., Matsuda, S., 2006. Induction of myasthenia by immunization against muscle-specific kinase. J Clin Invest 116, 1016-1024.

Copyright(C)東京都健康長寿医療センター All Rights Reserved.