研究所からのお知らせ

米国研究皮膚科学会誌The Journal of Investigative Dermatologyの電子ジャーナル版に先行掲載

平成24年4月24日
地方独立行政法人 東京都健康長寿医療センター

 

 この研究成果は平成24年4月13日(日本時間)に皮膚科学の分野でトップジャーナルである米国研究皮膚科学会誌The Journal of Investigative Dermatologyの電子ジャーナル版に先行掲載されたのでお知らせします。
「論文内容の詳細」

1.研究目的

 皮膚におけるビタミンCは、紫外線による酸化の抑制やメラニン色素の生成を抑制することが知られています。しかし、ビタミンCが欠乏すると皮膚にどのような影響を及ぼすか詳細はわかっていませんでした。そこで、当研究所と東京農工大学の研究チームが共同して、皮膚でのビタミンCの役割を解明するのに有用なビタミンCを体の中で作れないヘアレスマウスを開発しました。

 

全身に体毛がないヘアレスマウスは毛を剃る必要性がないため、様々な皮膚研究に有用な動物モデルとして汎用されています。しかし、これまで報告されているヘアレスマウスは全てビタミンCを体の中で作ることができます。今回開発したマウスは体毛が無くビタミンCを合成できないという特徴を持つため、これまでに報告されているどの動物よりも「皮膚におけるビタミンCの機能」について詳細に研究することができます。

2.研究成果の概要

 ビタミンC合成不全ヘアレスマウスをビタミンCを全く含まない餌や飲み水で飼育すると、皮膚のビタミンC含量が減少し、表皮が著しく萎縮することがわかりました。また、紫外線としてUVBを照射したところ、表皮全体に大量のメラニン色素の沈着が認められました。このように、ビタミンCが欠乏すると表皮が薄くなること、および、紫外線照射によるメラニン色素の生成が増加することがわかりました。

3.研究の意義

 皮膚におけるビタミンCの機能について全容解明が可能なモデル動物を開発することができました。
また、皮膚におけるビタミンCの機能の一部として、ビタミンCは表皮の構造維持に重要な役割を果たしている可能性があることを明らかにしました。
ビタミンC合成不全ヘアレスマウスは、このほかに、「皮膚の老化機構の解明」、「皮膚の抗老化研究」、「皮膚疾患の解析」など多くの研究に貢献できることが期待されます。

 
「皮膚のビタミンC欠乏、紫外線によるメラニン色素の沈着が増加」に関する論文内容詳細
[ 掲載論文の要旨 ]

 ビタミンCを合成できないヘアレスマウスを新しく作製してビタミンC欠乏の影響を解析したところ、表皮が薄くなることと紫外線を照射した時のメラニン色素の産生が増加することがわかりました。このマウスは皮膚でのビタミンCの機能を解析する有効な動物モデルになると考えられます。

[ 掲載誌 ]

 この新発見の掲載誌はThe Journal of Investigative Dermatologyです。平成24年4月13日に、電子ジャーナルに掲載されました。この雑誌は皮膚生物学や皮膚疾患に対する最新の論文を掲載しており、皮膚科学の分野でトップジャーナルです。

[ 掲載論文の英文表題とその和訳 ]

 Ascorbic acid deficiency leads to epidermal atrophy and UVB-induced skin pigmentation in SMP30/GNL knockout hairless mice
「SMP30/GNLノックアウトヘアレスマウスにおけるアスコルビン酸の欠乏は表皮の萎縮とUVB照射による色素沈着の増加を引き起こす」

[ 研究内容の詳細 ]

 ビタミンC(VC、アスコルビン酸)はスーパーオキシドラジカルやヒドロキシラジカルなどの活性酸素を消去する抗酸化作用ならびにコラーゲン重合に必要なプロリンおよびリシンの水酸化反応の補因子として働くことが知られている。皮膚ではこの機能に加えて、表皮角化細胞においてUVB照射による酸化傷害を軽減することが知られている。また、メラニン合成経路の中間産物であるドーパキノンを還元することが知られている。しかし、ビタミンCが欠乏すると皮膚にどのような影響を及ぼすか詳細はわかっていない。そこで、我々はビタミンCを合成できないSMP30/GNLノックアウトマウスとヘアレスマウスを交配して、SMP30/GNLノックアウトヘアレスマウスを作製した。このマウスをビタミンC投与群[VC(+)]、ビタミンC欠乏群[VC(-)]、さらにそれぞれにUVBを照射した群[UVB VC(+)、UVB VC(-)]の計4群に分けて4週間および8週間飼育した。そして、ビタミンC欠乏が皮膚に及ぼす影響について解析を行った。

 4週間飼育後のビタミンC欠乏群の皮膚中ビタミンC含量はビタミンC投与群の6.3%だった。一方8週間飼育後では、ビタミンC欠乏群の皮膚でビタミンCを検出することができなかった。これらの結果から、ビタミンC欠乏群の皮膚は確かにビタミンCが欠乏していることを確認することができた。

 次に、UVB照射による皮膚への色素沈着にビタミンCがどのような影響を及ぼすか解析を行った。そこで、まず明度と呼ばれる皮膚の明るさを示す指標について測定を行った。その結果、ビタミンC欠乏群にUVBを照射するとビタミンC投与群にUVBを照射した時と比較して明度の低下が認められた。また、UVBを照射することでビタミンC欠乏群の背中はより黒くなっていることがわかった。さらに皮膚の切片を作製後、フォンタナ・マッソン染色を行いメラニン色素の観察を行った。その結果、ビタミンC投与群では表皮の基底層と顆粒層下部のみにメラニン色素の沈着が認められたのに対して、ビタミンC欠乏群では表皮全体に大量のメラニン色素の沈着が認められた。これらの結果は、ビタミンC欠乏時に紫外線が照射されるとメラニン色素の産生が増加することがわかった。

 さらに、ビタミンC欠乏の影響を組織学的に解析するため、皮膚のヘマトキシリン・エオジン染色を行った。その後、得られた染色像を用いて、表皮厚および真皮厚の測定を行った。その結果、4群間で真皮厚および真皮層の構造に顕著な違いは認められなかった。一方表皮について解析を行った結果、ビタミンC欠乏群の表皮厚は投与群と比較して38.7%減少していた。染色像からもビタミンC欠乏群では表皮の委縮が認められた。さらに、UVB照射による正常な防御反応として起こる表皮の肥厚がビタミンC投与群では認められたのに対して、ビタミンC欠乏群ではUVBを照射しても表皮の肥厚が認められなかった。また、角質層、顆粒層、有棘層、基底層から成る表皮の層構造について解析を行った結果、表皮の層構造は崩れていないことがわかった。以上の結果から、ビタミンCが欠乏すると表皮の層構造を維持したまま萎縮を引き起こすことがわかった。

 本研究において、我々は皮膚におけるビタミンC欠乏の影響を詳細に解析するため、ビタミンCを合成できないヘアレスマウスであるSMP30/GNLノックアウトヘアレスマウスを新規に開発した。そして、このマウスを用いて、ビタミンCの欠乏が表皮の萎縮を引き起こし、UVB照射による色素沈着を増加させることを明らかにした。このことは、ビタミンCが表皮の構造を維持する上で重要な役割を果たしていることを示唆している。また、老齢マウスの皮膚では表皮の萎縮が観察されている。このことから、このマウスは皮膚におけるビタミンCの機能解析および老化の評価を解析する有用なヒトに類似するモデル動物になると考えられる。

[ 共同研究グループ ]
1.東京都健康長寿医療センター研究所 分子老化制御
  • 石神 昭人(研究副部長)
  • 丸山 直記(副所長)
  • 佐藤 安訓(協力研究員)
  • 相澤 真悟(首都大学東京 連携大学院生)
  • 岸本 祐樹(東京医科歯科大学 連携大学院生)
2.東京農工大学 農学部附属硬蛋白質利用研究施設
  • 西山 敏夫(教授)
  • 新井 浩司(准教授)
  • 野村 義宏(准教授)

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