研究所からのお知らせ

「重症筋無力症の新しいモデル動物とそれを使った有効な治療薬、従来の治療薬に対する過敏性のメカニズムを解明」

平成24年6月15日
平成24年6月3日追記

 

 米国のThe Jackson Laboratoryのウエブサイトで老年病研究チーム運動器研究グループの研究成果が紹介されました。The Jackson Laboratoryは様々な疾患モデルのマウス・ラットの種を保存して世界中の研究機関へ供給している研究所です。

1.研究成果の概要

 運動器研究グループは神経筋シナプスで発現するMuSK (muscle specific kinase) 蛋白に対する自己抗体で発症する重症筋無力症(厚生労働省が難治性疾患として指定して公費対象)の新しいマウス疾患モデルを開発して、発症メカニズムを解明し有効な治療法を発見しました。

2.重症筋無力症とは

 自己免疫疾患の一つで、患者さんの体内では運動神経と筋肉のつなぎめ(神経筋シナプス)の蛋白に対する自己抗体が産生されます。神経側から筋肉への神経伝達物質(アセチルコリン)が伝わりにくくなり、全身の筋力低下、眼瞼下垂、複視、易疲労性、嚥下困難が症状の特徴です。重症化すると呼吸困難になることがあります。患者さんの約80%はアセチルコリン受容体 (AChR)に対する自己抗体が検出され、残りの約30%の患者さんではMuSKに対する自己抗体が検出されます。

 運動器グループは2006年に、抗MuSK抗体で重症無力症が発症することを世界で最初に実験的に証明しました。また国立病院機構宇多野病院と協力して抗MuSK抗体の検査法を開発して、無償で診断を宇多野病院臨床研究部で受け付けています。

3.研究の背景

 重症筋無力症の患者は超高齢社会を背景に増加しています。1987年の調査では推定有病率は人口10万人あたり5.1人でしたが、2006年の調査で人口10万人あたり11.8人に増加しています。抗MuSK抗体陽性の重症筋無力症は抗AChR抗体陽性の重症筋無力症より重症になるケースが多く、また従来の治療法に対して難治性であることから、その発症メカニズムの解明と有効な治療法の開発が求められていました。

4.研究の意義

 運動器グループが開発したマウス疾患モデルを使って発症のメカニズムを明らかにして、従来の治療法に対する難治性の原因と有効な治療薬を発見しました。マウス疾患モデルは重症無力症の研究だけでなく、運動神経と筋肉のつなぎめの異常で発症する他疾患の研究にも有用です。

参考文献
  1. Mori, S., and Shigemoto, K. (2013). Mechanisms associated with the pathogenicity of antibodies against muscle-specific kinase in myasthenia gravis. Autoimmunity Reviews, in press.
  2. Mori, S., Kubo, S., Akiyoshi, T., Yamada, S., Miyazaki, T., Hotta, H., Desaki, J., Kishi, M., Konishi, T., Nishino, Y., Miyazawa, A., Maruyama, N., and Shigemoto, K. (2012). Antibodies against muscle-specific kinase impair both presynaptic and postsynaptic functions in a murine model of myasthenia gravis. The American journal of pathology 180, 798-810.
  3. Mori, S., Kishi, M., Kubo, S., Akiyoshi, T., Yamada, S., Miyazaki, T., Konishi, T., Maruyama, N., and Shigemoto, K. (2012). 3,4-Diaminopyridine improves neuromuscular transmission in a MuSK antibody-induced mouse model of myasthenia gravis. Journal of Neuroimmunology 245, 75-78.
  4. Mori, S., Yamada, S., Kubo, S., Chen, J., Matsuda, S., Shudou, M., Maruyama, N., and Shigemoto, K. (2012). Divalent and monovalent autoantibodies cause dysfunction of MuSK by distinct mechanisms in a rabbit model of myasthenia gravis. Journal of Neuroimmunology 244, 1-7.
  5. Ohta, K., Shigemoto, K., Fujinami, A., Maruyama, N., Konishi, T., and Ohta, M. (2007). Clinical and experimental features of MuSK antibody positive MG in Japan. Eur J Neurol 14, 1029-1034.
  6. Shigemoto, K., Kubo, S., Maruyama, N., Hato, N., Yamada, H., Jie, C., Kobayashi, N., Mominoki, K., Abe, Y., Ueda, N., and Matsuda, S. (2006). Induction of myasthenia by immunization against muscle-specific kinase. J Clin Invest 116, 1016-1024.

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