講演会のご案内

食生活に要注意 -高齢者の低栄養はキケンー

社会参加と地域保健研究チーム 谷口優

 

増加している「痩せ」

 体格を表す一般的な指標として、体重(kg)を身長の二乗(m2)で除した体格指数(BMI)が用いられます。例えば、体重60kgで身長が160cmの人のBMIは、60kg÷1.6m÷1.6mで約23.4kg/ m2と計算することができます。このBMIは、数値が高くなるほど肥満度が高くなります。日本人の成人のうち、BMIが25kg/ m2以上の肥満者の割合は、男性で29.1%、女性で19.4%であり1)、約4人に1人が肥満です。この数字を見ると、日本人に肥満が蔓延していると感じるかもしれません。しかし、肥満者の割合が6割を超える米国と比較すると、日本人における肥満者の割合は半分以下です2)。我が国の肥満者の年次推移をみると、男性はこの10年間で大きな変化はありませんが、女性では肥満者が減少傾向にあり、特に20代女性の「痩せ」が増加しています1)
 一方で、米国を中心とした欧米での研究から、肥満になると種々の健康被害が発生することが明らかになり、低カロリーな食品が好まれるようになりました。欧米で広まったこうした情報が我が国にも伝わり、「脂っぽいものはできるだけ食べない」、「食事は1日2回摂り、時には断食をする」といった粗食を実践している人を数多く見かけます。 しかし、そもそも日本と米国では、肥満者の割合が異なります。また、日本人の中でも、性別や年代によっては痩せ傾向にある集団が確認できているのに、国民一律に欧米での結果を適応することは危険かもしれません。そこで今回は、私たちの研究チームの成果を中心に、「栄養状態と健康との関係」についてご紹介したいと思います。

 

 

低栄養状態は認知機能低下リスクが高い

 私たちは、栄養状態と認知機能(頭の働き)との関係を明らかにするために、地域在住の高齢者の方を対象とした調査を行いました。この調査は、群馬県と新潟県に住む70歳以上の約1,150名の方を対象として今から約10年前に開始し、その後4年間の追跡調査を実施しています。調査の内容は、栄養状態をみるために血液を調べた他、認知症と強く関連する認知機能3)や、生活習慣全般としました。追跡調査を完了したのは682名であり、追跡調査時点で認知機能が低下(全般的認知機能の評価尺度MMSEが3点以上低下)していた人の要因を分析しました。
 その結果、血液検査項目の中で、赤血球数、HDL(善玉)コレステロール値、アルブミン値の3つの指標が、認知機能低下と強く関連していることがわかりました。それぞれの数値を「高い」、「普通」、「低い」に分けて、性別や年齢、既往歴、歩行機能の影響などを除外した上でのリスク(危険度)を調べたところ、「高い」群に対する「低い」群の認知機能低下のリスクは約2〜3倍になることがわかりました(図1~3)。赤血球は鉄分、コレステロールは脂質、アルブミンはたんぱく質の状態を示しており、これらの数値が低い低栄養の状態が将来認知症になるリスクを高めていると考えられます4)

 

図1

 

図2

 

図3

 

低栄養状態は生存率が低い

 私たちの研究チームでは、BMIと寿命との関係についても調査しました。この研究は、東京都と秋田県に住む65歳以上の高齢者約1,150名の検査結果をもとに、BMI、ヘモグロビン値、総コレステロール値、アルブミン値をそれぞれ4つの群(高い、少し高い、少し低い、低い)に分けて、8年間の追跡調査中の累積生存率(何名が生存しているか)を調べるものです。
 その結果、BMIが低い群(20kg/m2以下)は、他の3つの群(高い、少し高い、少し低い)よりも、明らかに生存率が低いことがわかりました(図4)。BMIが20kg/m2以下に該当する人は、病的な「痩せ」状態にある人ばかりではなく、細身の体型に見える人も多く含まれています。

 

図4

 ヘモグロビン値、総コレステロール値、アルブミン値もBMIと同様に、数値が低い群が他の3つの群に比べて生存率が低くなることがわかりました。これらの結果は、栄養状態が悪くなり、一定の水準を下回ると、死亡のリスクが高くなることを示しています。言い換えると、元気で長生きしている人ほど、もりもりと食べて、たっぷりと栄養を摂っているのです5)(図5~7)。

 

図5

 

図6

 

図7

 

食事の多様性が少ない人は生活機能の低下率が高い

 我々の研究所では、さまざまな食品を摂っているかどうかを調べるための「食品摂取の多様性得点」を考案しています(図8)。肉、魚介類、卵、大豆・大豆製品、牛乳・乳製品、緑黄色野菜、海藻類、いも、果物、油を使った料理の各食品群について、「毎日食べている」を1点、「食べない日がある、食べない」を0点とし、その合計点を10点満点で評価します。この食品摂取の多様性得点と、高齢者が自立した生活を送る上で必要な生活機能との関係が報告されています。
 食品摂取の多様性得点を3つの群(9点以上、4~8点、3点以下)に分けたところ、9点以上の群に比べて、4~8点の群では18%、3点以下の群では64%も生活機能の低下率が高くなっていました。この研究結果から、多様な種類の食品を摂ることは、老化のスピードを遅らせるのに重要であることが明らかになりました5)

 健康長寿を実現するために、家庭で計測することができるBMIや、血液検査項目の中で栄養状態を反映するヘモグロビン値、コレステロール値、アルブミン値などを参考にしながら、毎日の食事内容が偏らないように心がけていただきたいと思います。

 

図8

 

参考文献:

  1. 平成24年国民健康・栄養調査結果の概要.厚生労働省.
  2. Finucane MM, et al. National, regional, and global trends in body-mass index since 1980: systematic analysis of health examination surveys and epidemiological studies with 960 country-years and 9·1 million participants. Lancet 2011.
  3. 老人研NEWS NO.250「歩幅が狭い人は要注意 認知機能が低下しやすい人の特徴」
  4. Yu Taniguchi, et al. Nutritional Biomarkers and Subsequent Cognitive Decline Among Community-Dwelling Older Japanese: A Prospective Study. The Journals of Gerontology Medical Science 2014.
  5. 新開省二.50歳を過ぎたら「粗食」はやめなさい!.草思社,2011.

Copyright(C)東京都健康長寿医療センター All Rights Reserved.