虚弱(frailty)の予防戦術の解明を目的とした長期縦断研究

メンバー

プロジェクトリーダー 研究部長 北村明彦
研究員 谷口優、清野諭、横山友里、西真理子、天野秀紀、成田美紀、池内朋子、海渡翔、阿部巧、藤原佳典、鈴木宏幸、桜井良太(以上、社会参加と地域保健研究チーム)、
金憲経、渡邊裕、枝広あや子、本川佳子、大須賀洋佑(以上、自立促進と精神保健研究チーム)、
石崎達郎、大渕修一、光武誠吾(以上、福祉と生活ケア研究チーム)、
新開省二(社会科学系副所長)、
石神昭人(老化制御研究チーム)、
伊藤雅史、藤田泰典(老化機構研究チーム)、
重本和宏(自然科学系副所長)、
周赫英(老年病態研究チーム)、
平野浩彦(センター歯科口腔外科)、
武井卓、板橋美津世(以上、センター腎臓内科)、
他機関の構成員 窪木拓男、玉置勝司(以上、日本補綴歯科学会研究企画推進委員会)、
飯島勝矢(東京大学)、
磯博康(大阪大学)、
木山昌彦(大阪がん循環器病予防センター)、
谷川武(順天堂大学)、
岡村智教(慶応大学)、
川田智之(日本医科大学)、
山岸良匡(筑波大学)、
梅澤光政(獨協医科大学)

キーワード

虚弱、予防戦略、長期縦断研究、予測因子、体組成、栄養疫学

主な研究

  1. 追跡調査の継続と発展のための方法論の確立
  2. 地域の介護予防対策の評価に係る研究
  3. 共同研究

研究紹介

負の健康アウトカム(adverse health outcomes; 死亡、障害、転倒など)を起こしやすい虚弱(フレイル)は、高齢期の重要な健康課題です。本研究テーマでは、わたしたちが群馬県草津町や埼玉県鳩山町で行ってきた長期縦断研究(草津縦断研究および鳩山コホート研究)を継続・発展させ、虚弱の予後や原因を解明し、その予防に向けた戦略・戦術を提案することを主な目的にしています。また、所内外の他のコホート研究との大規模な統合研究や、所内自然科学系研究チームが発見したbiomarkerの疫学的意義に関する共同研究なども実施しています。研究テーマは大きくは3つあり、それぞれについて簡単に紹介します。

1.追跡調査の継続と発展のための方法論の確立

本研究チームでは、群馬県草津町と埼玉県鳩山町の2つの地域で長期に渡る研究を行なってきました。両町ともに調査の継続にあたり、町と共同し、研究的視点のみならず、地域の介護予防対策の支援という視点からの研究を進めてきた点が特徴です。

草津町縦断調査は2001年から現在まで18年間続いている高齢者コホート研究です。草津町縦断調査では、会場型の集団健康診査とその結果説明会を2002年以降、毎年開催し、2~3年ごとに悉皆調査(65歳以上の住民全員を対象とした郵送および訪問調査)を行ってきました。この間に、70歳時健康余命の上昇、要介護新規認定率の上昇抑制が認められ、町全体の介護費の上昇も抑制されています。

鳩山町調査は2010年から開始し、2年に1度、会場型の集団健診を行なってきました(健診がない年は郵送調査)。参加者には、個人結果の説明会を開催したり、研究成果や健康に関する情報誌「健康モニター通信」を定期的に発信してきました。鳩山町では2010年度以降、町全体の要介護認定率の上昇が抑えられ、健康寿命が県内第1位となっています。

今後は、草津町調査については、健診の受診率を高めるために、参加者のメリットの拡大、負担の軽減、満足度の向上につながり、かつ新しい視点からの研究が可能となるよう健診内容の改良などを図っていきます。鳩山町調査については、これまでの調査方法を一新し、町が実施する集団形式の健診と併せた研究検査を実施し、全町的な調査に発展させていく予定です。草津町、鳩山町と同様の環境をもつ他地域での介護予防対策のモデルの一つを示すことができると考えています。

2.地域の介護予防対策の評価に係る研究

 これまで実施してきた草津町、鳩山町において実施してきた介護予防対策の効果と課題を整理し、以下の①~③の観点から評価を行っています。研究成果は、他地域でも応用可能な『虚弱化の予防戦術』を提案するための資料にし、普及啓発していきます。

① 虚弱化に関するアウトカムの動向調査と関連因子の検討

これまでの研究からは、虚弱の先送りを図る(フレイル予防)ための働きかけを組織的に進めることは、高齢者の健康余命延伸の効果をもたらす可能性が高いことが分かっています。本研究チームでは、各研究地域における虚弱化のアウトカムとして、要介護認定率、要介護新規認定率、健康余命を設定し、その経年的なモニタリングを行っています。より詳細に検討するために、性別、年齢層別の動向もみています。虚弱化に関連する因子としては、脳卒中、糖尿病等の生活習慣病や骨・関節疾患、フレイルをはじめとする老年症候群の関与の強さや寄与度を疫学的に解明していきます。本研究を進めることで、虚弱化を予防するために介入すべき関連因子が明確になると考えています。

② 住民の健康づくり活動・社会参加活動の効果判定

これまで鳩山町との共同研究事業において、健康づくりや地域づくりに関わる、多くの活動や取り組みを行なってきました。例えば、健康づくりサポーターの養成や体操教室の活動支援、介護予防教室の開催、食とコミュニティをつなぐ活動やイベント(住民が一緒に会食する共食イベントの開催など)、会場型集団健診の実施などです。このような健康づくり活動、地域参加型イベントへの参加状況と、要介護や虚弱の発生(または抑制効果)との関連を明らかにしていきます。

また、2011年および2013年に鳩山町において「運動・栄養・社会参加(交流)」を軸とした虚弱予防教室「毎日元気にクラス」を実施しました。この虚弱予防プログラムの短期的、中期的効果を示してきましたが、さらに長期的効果についても検証をすすめ、本プログラムを広く普及・啓発していきたいと考えています。

③ 社会経済的評価

高齢化の進む日本では、医療費や介護費の増加抑制が課題になっており、医療費や介護費抑制のための研究が社会的に求められています。当研究チームでは、これまで、草津町の総医療費と総介護費の近年における上昇抑制、および高次生活機能の加齢変化パターンと総医療費・総介護費の関連を明らかにしてきました。今後は、当センターの医療・介護システム研究チームとの共同研究にて、医療費・介護費の内訳(医科・歯科・調剤等の科別や、外来・入院、施設介護・在宅介護別)に着目し、詳細な分析を行っていきます。

3.共同研究

① 虚弱化の関連因子の解明

草津町、鳩山町調査で得られた各種情報や保存検体を用いた研究、および統合研究データを用いた研究を所内外の機関と共同して進めています。

主な共同研究機関 :老化機構研究チーム、老年病態研究チーム(以上センター内)、日本補綴歯科学会、公益信託日本動脈硬化予防研究基金、公益財団法人伊藤記念財団、筑波大学社会健康医学、大阪大学公衆衛生学、株式会社大塚製薬、長寿医療研究開発費、厚生労働省科学研究費補助金など

② 虚弱化の早期発見のためのツールの開発と実装化

当研究チームでは、虚弱化の早期発見のため3つのツール(体力評価システム、フレイルの評価のための介護予防チェックリスト、早期低栄養リスクを評価する簡易アセスメントツール)をこれまでに開発しました。今後は、これらのツールの活用の場の拡大(実装化)やさらなる妥当性検証にむけて、研究を進めていきます。

主要文献

  1. 北村明彦, 新開省二, 谷口優, 天野秀紀, 清野諭, 横山友里, 西真理子, 藤原佳典. 高齢期のフレイル, メタボリックシンドロームが要介護認定情報を用いて定義した自立喪失に及ぼす中長期的影響:草津町研究. 日本公衆衛生雑誌,64(10):593-5606, 2017.,
  2. Taniguchi Y, Kitamura A, Nofuji Y, Ishizaki T Seino S, Yokoyama Y, Shinozaki T, Murayama H, Mitsutake S, Amano H, Nishi M, Matsuyama Y, Fujiwara Y, Shinkai S. Association of Trajectories of Higher-Level Functional Capacity with Mortality and Medical and Long-Term Care Costs Among Community-Dwelling Older Japanese. J Gerontol A Biol Sci Med Sci, in press
  3. Seino S, Nishi M, Murayama H, Narita M, Yokoyama Y, Nofuji Y, Taniguchi Y, Amano H, Kitamura A, Shinkai S. Effects of a multifactorial intervention comprising resistance exercise, nutritional, and psychosocial programs of frailty and functional health in community-dwelling older adults: A randomized, controlled, crossover trial. Geriatr Gerontol Int, 17(11):2034-2045, 2017.
  4. Seino S, Sumi K, Narita M, Yokoyama Y, Ashida K, Kitamura A, Shinkai S. Effects of low-dose dairy protein plus micronutrient supplementation during resistance exercise on muscle mass and physical performance in older adults: A randomized, controlled trial. J Nutr Health Aging, 22(1):59-67, 2018.
  5. Takagi D, Watanabe Y, Edahiro A, Ohara Y, Murakami M, Murakami K, Hironaka S, Taniguchi Y, Kitamura A, Shinkai S, Hirano H. Factors affecting masticatory function of community-dwelling older people: Investigation of the differences in the relevant factors for subjective and objective assessment. Gerodontology. 34:357-364, 2017.
  6. Shinkai S, Yoshida H, Taniguchi Y, Murayama H, Nishi M, Amano H, Nofuji Y, Seino S, Fujiwara Y. Public health approach to preventing frailty in the community and its effect on healthy aging in Japan. Geriatr Gerontol Int. 16 Suppl 1:87-97, 2016.
  7. Fujita Y, Taniguchi Y, Shinkai S, Tanaka M, Ito M. GDF15 as a biomarker for aging and age-related disorders. Geriatr Gerontol Int. 16 Suppl 1:17-29, 2016.
  8. Seino S, Shinkai S, Iijima K, Obuchi S, Fujiwara Y, Yoshida H, Kawai H, Nishi M, Murayama H, Taniguchi Y, Amano H, Takahashi R : Reference values and age differences in body composition of community-dwelling older Japanese men and women: A pooled analysis of four cohort studies. PLoS ONE. 10(7): e0131975, 2015.
  9. Seino S, Shinkai S, Fujiwara Y, Obuchi S, Yoshida H, Hirano H, Kim HK, Ishizaki T, Takahashi R ; TMIG-LISA Research Group : Reference values and age and sex differences in physical performance measures for community-dwelling older Japanese: A pooled analysis of six cohort studies. PLoS ONE. 9(6), e99487, 2014.
  10. Taniguchi Y, Shinkai S, Nishi M, Murayama H, Nofuji Y, Yoshida H, Fujiwara Y. Nutritional Biomarkers and Subsequent Cognitive Decline Among Community-Dwelling Older Japanese: A Prospective Study. J Gerontol A Biol Sci Med Sci, 69(10):1276-1283, 2014.
  11. 清野諭, 谷口優, 吉田裕人, 藤原佳典, 天野秀紀, 深谷太郎, 西真理子, 村山洋史, 野藤悠, 松尾恵理, 干川なつみ, 土屋由美子,新開省二 : 群馬県草津町における介護予防10年間の取り組みと地域高齢者の身体,栄養,心理・社会機能の変化. 日本公衆衛生雑誌, 61(6):286-298,2014.
  12. 野藤悠, 新開省二, 吉田裕人, 西真理子, 天野秀紀, 村山洋史, 谷口優, 成田美紀, 松尾恵理, 深谷太郎, 藤原佳典, 干川なつみ, 土屋由美子 : 介護予防評価における介護保険統計の有用性と限界~草津町介護予防10年間の評価分析を通して~. 厚生の指標, 61(12):28-35,2014.
  13. 新開省二, 吉田裕人, 藤原佳典, 天野秀紀, 深谷太郎, 李相侖, 渡辺直紀, 渡辺修一郎, 熊谷修, 西真理子, 村山洋史, 谷口優, 小宇佐陽子, 大場宏美, 清水由美子, 野藤悠, 岡部たづる, 干川なつみ, 土屋由美子 : 群馬県草津町における介護予防10年間の歩みと成果. 日本公衆衛生雑誌, 60(9):596-605, 2013.
  14. 新開省二, 渡辺直紀, 吉田裕人, 藤原佳典, 西真理子, 深谷太郎, 李相侖, 金美芝, 小川貴志子, 村山洋史, 清水由美子 : 『介護予防チェックリスト』の虚弱指標としての妥当性の検証. 日本公衆衛生雑誌, 60(5):262-274, 2013.
  15. Murayama H, Nishi M, Shimizu Y, Kim MJ, Yoshida H, Amano H, Fujiwara Y, Shinkai S. The Hatoyama cohort study: design and profile of participants at baseline. J Epidemiol, 22(6):551-558, 2012.