分子老化制御研究

メンバー

リーダー 研究副部長 近藤 嘉高
非常勤研究員 高見 真

キーワード

健康長寿、代謝健康、運動機能、認知機能、栄養、三大栄養素バランス、タンパク質、脂質、炭水化物、アミノ酸、老化、老化制御、抗老化、老化バイオマーカー、寿命、加齢指標タンパク質(SMP30)、グルコノラクトナーゼ(GNL)、ビタミンC、ビタミンC合成不全マウス、活性酸素、レドックス、機能性食品、抗酸化、シングルセル解析、老化関連遺伝子、老化細胞、ペプチジルアルギニンデイミナーゼ(PAD)、シトルリン化タンパク質、認知症、アルツハイマー病、プリオン病、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、慢性腎臓病(CKD)

主な研究

  1. 栄養と老化
  2. 加齢指標タンパク質SMP30の機能解明
  3. 老化とビタミンC
  4. シングルセル解析による老化関連遺伝子、老化細胞の同定
  5. シトルリン化分子と老年病態

研究紹介

1. 栄養と老化

私たちは、健康長寿を達成するため、栄養と老化の関係を解き明かすことにより、老化制御の実現を目指しています。昔から、長寿の秘訣にバランスの良い食事があげられてきました。しかし、バランスの良い食事とは具体的にどのようなものでしょうか。近年、食事の三大栄養素(タンパク質, 炭水化物, 脂質)の総カロリーに対する割合と健康や老化、長寿の関連が注目されています。私たちは、最近、老齢期に向けたマウスの代謝健康(metabolic health)の維持に最適な食事のタンパク質割合が25-35%であることを明らかにしました。三大栄養素の適切な摂取割合がフレイル,サルコペニア,認知症の予防や代謝健康、そして健康寿命の延伸に繋がるかどうかを明らかにします。

図1.jpg

2. 加齢指標タンパク質SMP30の機能解明

加齢に伴い私たちの身体機能は低下し、様々な故障も増加します。このような加齢現象の背後には身体を構成する様々な分子や臓器機能の変化が存在します。私たちは、加齢に伴い発現が変化する種々の遺伝子群やタンパク質群を解析することにより、高齢者が有する身体機能の不全を早期に、しかも正確に検知し、抑制するための方法論の開発を目指しています。
今までの研究から、加齢に伴い減少する生体分子、加齢指標タンパク質SMP30を発見し、老化における重要性を明らかにしてきました。SMP30は、老化バイオマーカーとしての有用性も期待されています。現在、SMP30の未だ明らかになっていないビタミンC生合成以外のヒトでの機能の解明を目指して研究を行っています。

u2.jpg

3. 老化とビタミンC

今までの研究から、SMP30はビタミンC生合成に必須の酵素、グルコノラクトナーゼ(GNL)であることが分かりました。SMP30/GNL遺伝子を欠損したマウスは、ヒトと同様にビタミンCを体内で合成できません。また、ビタミンCが不足したマウスは、寿命が短く、早期に死亡します。私たちは、コラーゲン繊維の構築や活性酸素種の消去、DNAの脱メチル化など、多様な働きをもつといわれるビタミンCの生理機能をひとつひとつ明らかにすることにより、ビタミンCの抗老化作用を解明していきます。

図2.jpg

4. シングルセル解析による老化関連遺伝子、老化細胞の同定

近年、老齢動物の組織には、細胞の機能が衰えた「老化細胞」の存在が明らかになってきました。この老化細胞を特定し、個々の老化細胞の性質を調べることは、複雑な老化機構の解明に繋がります。私たちは、1細胞発現解析(Nx1-seq: Next generation 1 cell sequencing)を用いて老化関連遺伝子を1細胞レベルで包括的に探索、同定しました。私たちが定義する「老化関連遺伝子」とは、老化の機構に直接関与する遺伝子だけでなく、間接的に発現変動する、老化機構に直接関与しない遺伝子も含みます。また、同定した老化関連遺伝子を指標にして老齢動物の組織に存在する老化細胞を同定し、その機能低下の機構を解明します。

zu 3.jpg

5. シトルリン化分子と老年病態

タンパク質の修飾は、情報伝達、遺伝子発現、細胞分化や老化に深く関わっています。特に、タンパク質中のアルギニンがシトルリンに変わるシトルリン化反応は、タンパク質が本来持っている電荷や高次構造に著しい変化をもたらします。タンパク質シトルリン化反応は、ペプチジルアルギニンデイミナーゼ(PAD)という酵素により触媒されます。ヒトでは5種類のアイソフォームが存在することが分かっています。
今までの研究から、アルツハイマー型認知症患者の脳ではシトルリン化タンパク質が早期に出現し、病状の進行程度に応じて、その量が増加することを明らかにしてきました。また、関節リウマチでもシトルリン化タンパク質が疾患の発症に関与することが報告されています。現在、アルツハイマー型認知症の臨床診断薬はありません。私たちは、シトルリン化タンパク質やPADを指標とした臨床検査診断薬を開発し、認知症や老年病などの早期診断薬になりうるか研究を行っています。

zu 4.jpg

主要文献

  1. Kakizawa S, Arasaki T, Yoshida A, Sato A, Takino Y, Ishigami A, Akaike T, Yanai S, Endo S. Essential role of ROS - 8-Nitro-cGMP signaling in long-term memory of motor learning and cerebellar synaptic plasticity. Redox Biol. 2024 Feb 1;70:103053.
  2. Kim J, Lee S, Hong DG, Yang S, Tran CS, Kwak J, Kim MJ, Rajarathinam T, Chung KW, Jung YS, Ishigami A, Chang SC, Lee H, Yun H, Lee J. Amelioration of Astrocyte-Mediated Neuroinflammation by EI-16004 Confers Neuroprotection in an MPTP-induced Parkinson's Disease Model. Neuromolecular Med. 2024 Jan 30;26(1):1.
  3. Iwai T, Ohyama A, Osada A, Nishiyama T, Shimizu M, Miki H, Asashima H, Kondo Y, Tsuboi H, Mizuno S, Takahashi S, Ishigami A, Matsumoto I. Role of inter-alpha-trypsin inhibitor heavy chain 4 and its citrullinated form in experimental arthritis murine models. Clin Exp Immunol. 2024 Feb 19;215(3):302-312.
  4. Rajarathinam T, Thirumalai D, Jayaraman S, Yang S, Ishigami A, Yoon JH, Paik HJ, Lee J, Chang SC. Glutamate oxidase sheets-Prussian blue grafted amperometric biosensor for the real time monitoring of glutamate release from primary cortical neurons. Int J Biol Macromol. 2024 Jan;254(Pt 2):127903.
  5. Ramalingam Manikandan, Jaehoon Kim, Akihito Ishigami, Joon Young Cho, Jung Hoon Kim, Joon Tark Han, Jaewon Lee, Seung-Cheol Chang, Dispersant-free supra single-walled carbon nanotubes for simultaneous and highly sensitive biomolecule sensing in ex vivo mouse tissues. Carbon 2023 Volume 213, September 2023, 118275
  6. Arakawa K, Inoue H, Ishigami A, Sato A, Takino Y, Tanaka M, Morimoto H, Takahashi N, Uehara M. Release of SMP30 in Extracellular Vesicles under Conditions of Ascorbic Acid Deficiency Is Involved with Acute Phase Response in ODS Rat. J Nutr Sci Vitaminol (Tokyo). 2023;69(6):420-427.
  7. Inoue H, Shimizu Y, Yoshikawa H, Arakawa K, Tanaka M, Morimoto H, Sato A, Takino Y, Ishigami A, Takahashi N, Uehara M. Resveratrol Upregulates Senescence Marker Protein 30 by Activating AMPK/Sirt1-Foxo1 Signals and Attenuating H2O2-Induced Damage in FAO Rat Liver Cells. J Nutr Sci Vitaminol (Tokyo). 2023;69(5):388-393.
  8. Doshida Y, Hashimoto S, Iwabuchi S, Takino Y, Ishiwata T, Aigaki T, Ishigami A. Single-cell RNA sequencing to detect age-associated genes that identify senescent cells in the liver of aged mice. Sci Rep. 2023 Aug 30;13(1):14186.
  9. Sato A, Ishigami A. Effects of heated tobacco product aerosol extracts on DNA methylation and gene transcription in lung epithelial cells. Toxicol Appl Pharmacol. 2023 Sep 15;475:116637.
  10. Kondo Y, Aoki H, Masuda M, Nishi H, Noda Y, Hakuno F, Takahashi SI, Chiba T, Ishigami A. Moderate protein intake percentage in mice for maintaining metabolic health during approach to old age. GeroScience 2023 Aug;45(4):2707-2726.
  11. Takigawa M, Tanaka H, Suwa J, Obara T, Maeda Y, Sato M, Shimazaki Y, Onoda T, Ishigami A, Ishii T. Accuracy of Therapeutic Drug Monitoring of Teicoplanin at the Onset of Febrile Neutropenia. Medicina (Kaunas) 2023 Apr 13;59(4):758.
  12. Li Y, Dai J, Kametani F, Yazaki M, Ishigami A, Mori M, Miyahara H, Higuchi K. Renal Function in Aged C57BL/6J Mice Is Impaired by Deposition of Age-Related Apolipoprotein A-II Amyloid Independent of Kidney Aging. Am J Pathol. 2023 Jun;193(6):725-739.
  13. Takigawa M, Tanaka H, Washiashi H, Onoda T, Ishigami A, Ishii T. Time to Onset of Gemcitabine-induced Thrombotic Microangiopathy in a Japanese Population: A Case Series and Large-scale Pharmacovigilance Analysis. Cancer Diagn Progn. 2023 Jan 3;3(1):115-123.
  14. Yamaguchi T, Yamamoto Y, Egashira K, Sato A, Kondo Y, Saiki S, Kimura M, Chikazawa T, Yamamoto Y, Ishigami A, Murakami S. Oxidative Stress Inhibits Endotoxin Tolerance and May Affect Periodontitis. J Dent Res. 2023 Mar;102(3):331-339.
  15. 近藤嘉高 : 食事による栄養制御と代謝健康.基礎老化研究 48(1), 9-13 (2024)
  16. 佐藤綾美、石神昭人 : 老化指標DNAメチル化に影響を及ぼす因子の評価.基礎老化研究 48(1), 29-30 (2024)
  17. 佐藤綾美、近藤嘉高、石神昭人 : ビタミンCの生理機能-健康長寿への展望-.機能性食品と薬理栄養17(4), 235-240 (2024)
  18. 佐藤綾美、石神昭人 : ビタミンCと呼吸器疾患. ビタミン 97, 561-563 (2023)
  19. 石神昭人 : 皮膚におけるビタミンCの働き.Bella Pelle 8, 219-222 (2023)
  20. 石神昭人 : ビタミンCの不足は慢性閉塞性肺疾患(COPD)発症リスクを高める. 「食と医療」25, 26-31 (2023)
  21. 佐藤安訓、木村敏行、石神昭人 : 2006年から2021年における壊血病発症状況(その1):日本では自閉スペクトラム症児を中心に壊血病が増加している. ビタミン 97, 131-137 (2023)
  22. 佐藤安訓、木村敏行、石神昭人 : 2006年から2021年における壊血病発症状況(その2):世界では年齢に問わず壊血病が増加している. ビタミン 97, 138-143 (2023)
  23. 瀧川正紀、石井敏浩、石神昭人 : 腎疾患とビタミンC. ビタミン 97, 144-146 (2023)
  24. 石神昭人 : ビタミンC摂取と老化制御. 食品と科学 65, 18-20 (2023)