高齢者の孤立死予防に向けた住民と地域包括支援センターの連携促進ツール:『高齢者見守りのポイントチェックシート』の作成

社会参加と地域保健研究チーム 野中 久美子

見守りが必要な高齢者とは

我が国では,高齢者が住み慣れた地域で安心して生活するために,多様な医療・介護・福祉サービスが整備されています。しかし,健康障害や認知症等により,これらの利用や支援が必要な状態にあるにもかかわらず,近隣住民や友人・知人から孤立し,必要な支援を受けずに暮らす高齢者が地域には潜んでいます1)。そして,このような高齢者の中には,極めて不衛生な居住環境にあり,着衣・食の貧困化に伴う低栄養状態といった生活荒廃,および社会的孤立状態に陥っている方も少なくありません。なかには,既に致死的な状況に至っている場合があり,孤立死のハイリスク群ともいえます2)

高齢者を見守るための地域包括支援センターと地域の連携

このような孤立状態にある高齢者を早期に把握し,必要な医療・介護・福祉サービスの利用や,公的機関以外の社会資源による支援に結び付けることにより,孤立死や健康障害の重篤化を回避し,住み慣れた地域での安心した生活を支援することが重要です。そのためには,近隣住民や行きつけの店舗など,多様な人・団体・機関と地域包括支援センター(以下,地域包括)が連携して高齢者を見守ることが必要となります。

地域包括は,高齢者が住み慣れた地域で安心して生活するための包括的および継続的な支援を行う機関として,平成17年度に全国の各区市町村に設置されました。各地域包括には,社会福祉士,保健師または経験のある看護師,および介護の専門家である主任介護支援専門員が配置されています。これらの専門職が,高齢者やその家族に対して,主に以下の4つの支援を行っています。

地域包括支援センターの主な役割

『高齢者見守りのポイントチェックシート』の作成方法

高齢者を見守る住民の方から,どのような場合に地域包括へ連絡すればよいのかわからないという不安の声が多く聞かれました。そこで,私たち住民が見守るべき高齢者の特徴や,地域包括へ相談・連絡すべき高齢者の「目安」を示した『高齢者見守りのポイントチェックシート』を作成しました。

既に,自治体の中にはいくつかの類似する指標が使われていました。しかし,これらのツールがどのようにして高齢者の特徴を浮き彫りにしたのか,その抽出プロセスは不明でした。そこで,我々の研究グループでは,高齢者の総合相談窓口である地域包括にインタビュー調査やアンケート調査を行い,実態に沿った実用性の高い普及啓発ツールを作成しました。

その方法は,先ず,首都圏4自治体の地域包括職員29名を対象に,支援が必要と思われる高齢者の把握と支援導入に向けた対応に関するインタビュー調査を実施しました。その結果,63の事例から支援が必要な高齢者の特徴として51個の項目を抽出しました。重複する特徴を削除・統合し,最終的には23個の特徴を選定しています。

次に,首都圏1自治体の全地域包括の職員109名を対象として自記式の調査を行いました。その内容は,先の調査で選定した23個の支援が必要な高齢者の特徴について,住民からの通報を希望するかどうかです。その結果から,通報の希望の多かった14の項目を抽出しました。

地域包括支援センターへの連絡・相談の目安となる状態とは?

今回作成した『高齢者見守りのポイントチェックシート』は,住民が高齢者と接する場面(例えば,会話や身嗜み,居宅の外観)において,認知症の発症や体調の悪化に気付くポイントを記しています。以下9つの特徴が,地域包括に相談する目安になります。

見守りのポイント

1から5の特徴が見られる時には,認知症の可能性があります。例えば妄想はアルツハイマー病の特徴的な周辺症状であり3),話の繰り返しと慣れている所で道に迷うは,認知症初期症状の一つです4)。同様に,季節に適した服装ができなくなる,および着替えが出来なくなるという特徴も認知症に伴い表れることがあります4)

5は認知症の発症だけでなく,体調不良の可能性もあります。認知機能低下に伴い,入浴や身嗜みの手入れができなくなることもあります4)。また,要支援高齢者においては入浴の非自立度が高くなっているという報告もあります5)。「臭くなってきた」や髪の毛や髭の乱れは認知機能や身体機能の低下により,トイレへ行けず失禁が増えた,入浴が困難になってきた,身嗜みの手入れが億劫になってきた結果として表れる特徴とも考えられます。

5の他に,体調不良の可能性を示唆する特徴として6のような特徴があります。足元の危うさや歩く姿の危なっかしい様子から示される歩行能力の低下は在宅高齢者の軽度要介護認定の予知因子であることが先行研究で指摘されています6)

7~9は,居宅の外観に日頃から関心を払うことにより気付ける体調不良の特徴としました。ただし,これらの特徴は例えば家の中で倒れている等の緊急性の高い状態に陥っている可能性もあります。

今回の研究では,早急な対応が求められるケースや,緊急性が高く鍵を開錠する必要があるケースについては,地域包括ではなく,警察や消防に直接連絡すべきとの意見がありました。したがって,今後の課題として,警察や消防に連絡すべき場合を明確にする,もしくは全ての情報を一元的に地域包括に集約するといった情報の整理を行うことが必要です。高齢者を取り巻く住民に求められる対応や,普及啓発すべき内容の明確化は,今後の検討課題です。

以上の課題が残されていますが,この『高齢者見守りのポイントチェックシート』を住民に情報提供の目安として活用してもらうことにより,地域包括が支援が必要な高齢者を早期に把握することに寄与できると考えます。


  • 1)厚生労働省.高齢者等が一人でも安心して暮らせるコミュニティづくり推進会議(「孤立死」ゼロを目指して)-報告書-.2008;1-56.

  • 2)岸恵美子,吉岡幸子,野村祥平,他.専門職が関わる高齢者のセルフ・ネグレクト事例の実態と対応の課題.高齢者虐待防止研究 2011;7(1):125-138.

  • 3)高橋未央,山下功一, 天野直二.アルツハイマー病のBPSD.老年精神医学雑誌 2010;21(8):850-857.

  • 4)川畑信也.診察室における認知症診断の手順:認知症疾患の診断と治療の実際‐「物忘れ外来」レポート-すべての臨床医のための実践的アドバイス.東京:ワールドプランニング.2005;9-19.

  • 5)金憲経,胡秀英,吉田英世,湯川晴美,鈴木隆雄.介護保険制度における後期高齢要支援者の生活機能の特徴.日本公衆衛生雑誌 2003;50(5):446-455.

  • 6)藤原佳典,天野秀紀,熊谷修,他.在宅自立高齢者の介護保険認定に関連する身体・心理的要因:3年4か月間の追跡研究から.日本公衆衛生雑誌 2006;53(2):77-91.