2025年6月に発刊された「寿命の辞典」のコラムで長寿の俗説に触れていますが、誌面の関係で一問一答になっていました。このシリーズではそれぞれを詳しく解説します。
長寿の俗説(その1)
少量の酒は長生き?
Yes
0.94歳長生き(YT Liu: Scientific Report 2022)
90歳まで生きるには酒は有用?
Yes
オランダの8,000人弱の70歳集団20年間の縦断研究では90歳まで生きる確率は1.36倍
#5〜15gのアルコールが良い(ビール1缶、ワイン1杯、日本酒1号、水割り1杯程度)
#ワインは男女とも、ウイスキーは、男性は良いが、女性は負の作用
#暴飲は男女とも早死に(Age Ageing:2020 Apr 27;49(3):395-40)
頭がしっかりして長生きになるのに酒は役立つ?
Yes
米国サンディエゴ近郊Rancho Bernardoで50年近く続いている縦断研究では、食事、喫煙、運動などを調整しても、3杯以内の飲酒しているグループは、85歳まで頭がしっかりしている(軽度認知障害でもない)確率は2倍 (J Alzheimers Dis. 2017;59(3):803-81)
「本当に酒は長生きか」の結論は出ているのか?
No?
少量のアルコールと生命予後を研究した87の論文の平均スコア(多くの関連因子を調整後)では危険率減少は3%(0.97:0.88〜1.07)でわずかに有意ではありませんでした。
研究の対象によって必ずしも、いいとは限らないというのが現在の到達点です(J Stud Alcohol Drugs. 2016)。過去の研究で、対照群から、禁酒者(過去飲酒し断酒したもの)が除かれていないことが、大きな原因と指摘されています。禁酒者(former drinker)には大量飲酒して断酒したものもあり、断酒者にうつが高率に見られることも指摘されており、このような人と比べることで研究にバイアスがかかっているとの指摘は今後の課題とされています。