当センター病院と研究所の共同研究チームは、電子カルテに日常的に入力される情報を活用して作成した35項目からなる「電子カルテによるマルチモビディティとフレイルティの指標(electronic Multimorbidity Frailty Index-35; eMFI-35)」を用い、急性期病院に入院した高齢患者の予後を検討しました。
その結果、慢性疾患、老年症候群、日常生活動作(ADL)の制限の該当数の合計によるマルチモビディティによる評価法が、入院中の死亡、ADLの改善、入院期間、退院先と関連することを明らかにし、2025年7月17日に「Geriatric & Gerontology International」にオンライン掲載されました。
複数の慢性疾患を同時に併発することは「マルチモビディティ」と呼ばれており、死亡や生活機能低下、長期入院といった不良な転帰と関連すると考えられています。高齢患者では、「慢性疾患の数」だけでなく、高齢者に特有の症候(転倒、低栄養、疼痛など)である「老年症候群の数」やADL制限もその予後に影響を与える可能性があります。海外では慢性疾患、老年症候群、ADL制限の合計数による「フレイルティ指標(Frailty Index)」が開発されており、高齢者の死亡リスクを予測できています。
本研究では、日常診療の中で入院時にルーチンに電子カルテに記録されているデータを最大限に活用し、慢性疾患、老年症候群、ADL制限の合計数からなる「電子カルテによるマルチモビディティとフレイルティの指標」のeMFI-35を算出し、高齢入院患者の予後との関連を明らかにすることを目的としました。
この仕組みにより、追加の負担を抑え、高齢入院患者の予後を包括的に評価できる可能性があります。
対象者:2022年7月〜2024年4月に当センターへ入院した60歳以上の患者1491名
手技目的の短期入院や重複入院を除外
評価指標(eMFI-35):
慢性疾患17項目(心疾患、糖尿病、腎疾患、認知症、変形性関節症、悪性腫瘍など)
老年症候群16項目(転倒歴、低栄養、不眠、疼痛、うつ状態、視力障害など)
ADL 2項目(BADL低下、IADL低下)
合計35項目を電子カルテから抽出しスコア化
重症度分類:
軽度(0-2項目)、中等度(3-4項目)、高度(5-9項目)、極めて高度(10項目以上)
主要アウトカム:
入院中死亡
ADLの改善(Barthel Index 20点以上の改善)
入院期間(15日以上を長期入院と定義)
自宅退院の可否
患者の平均年齢:82歳、女性53.9%
分類:軽度22.3%、中等度30.0%、高度39.1%、極めて高度9.6%
主な知見:
極めて高度群(10項目以上)は、
l 入院中死亡リスクが約3倍に上昇(HR 3.10, 95%CI 1.28-7.51)
l ADL改善の可能性が約半分に低下(HR 0.51, 95%CI 0.37-0.71)
l 自宅退院の可能性が低下(HR 0.61, 95%CI 0.44-0.85)
l 長期入院のリスクが上昇(OR 2.11, 95%CI 1.34-3.33)
高度群(5-9項目)も、自宅退院の減少(HR 0.81)や入院延長(OR 1.47)と関連
電子カルテ情報から自動算出可能なeMFI-35は、診療現場で簡便に活用できる実用的な評価ツールです。
本研究により、慢性疾患、老年症候群などの該当数からなるeMFI-35は「マルチモビディティ」の指標だけでなく、「フレイルティ指標」でもあり、入院患者の予後が推定できることが明らかになりました。
入院時にeMFI-35を用いることで、治療方針や退院支援、ケアの調整をより適切に行える可能性が示されました。特に、新たに情報を聴取する手間を省き、既存の電子カルテデータを最大限に活用できる点が大きな利点であると考えます。
Toyoshima K, Araki A, Tamura Y, Ishikawa J, Iwakiri R, Takei T, Kubo K, Ono S, Miyakoshi S, Tanei R, Kasuya Y, Kawata M, Takanashi S, Ohara K, Miyazaki T, Kanazawa N, Nakazato T, Yamamoto H, Iwata A, Harada K, Anraku M, Sasai H, Obuchi S, Fujiwara Y, Akishita M, Toba K. Prognostic value of the electronic Multimorbidity Frailty Index for mortality, change in basic activities of daily living, length of hospital stay and discharge home in older hospitalized patients. Geriatr Gerontol Int. 2025 Jul 17. doi: 10.1111/ggi.70126. Epub ahead of print. PMID: 40673429.