膵臓の不顕性癌の臨床病理像

背景

膵癌の約70%は手術不能な進行癌であるため、膵癌の病理像の正確な把握には手術検体だけでは限界があり、病理解剖は膵癌の病態を解明する貴重な機会であると考えられる。我々は膵癌の臨床病理学的特徴の解明を目指し、臨床的に指摘されておらず病理解剖で発見された膵臓の不顕性癌について検討した。

方法

当センターの高齢者の連続病理解剖8339症例 (平均79.2歳) の病理標本を再評価した。

結果

剖検8339例のうち膵臓に何らかの病変を認めた症例は511例 (6.1%) であり、そのうち膵臓の原発性腫瘍は240例 (2.9%)、二次性腫瘍 (胃癌、肺癌、血液腫瘍等の転移) は175例 (2.1%) に認めた。原発性腫瘍の多くは浸潤性膵管癌であり (193例、2.3%)、その他に膵管内乳頭粘液性腫瘍11例、神経内分泌腫瘍27例、神経内分泌癌4例、腺房細胞癌1例、漿液性嚢胞腫瘍が1例見られた。浸潤性膵管癌193例のうち、不顕性癌は15例であった。不顕性癌の症例では、臨床的に指摘されていた膵癌症例と比較し、高齢者で、膵尾部に多く、腫瘍径が小さく、高分化型腺癌で早期癌の症例が多いという特徴を示した。しかし、不顕性癌症例の27%は遠隔転移を有する進行癌であった。不顕性癌の病理組織像は、進行癌と同様であり、豊富な線維性間質を伴って浸潤性に増殖し、脈管や神経への侵襲像を認めた (図1)

考察

浸潤性膵管癌の約8%は不顕性癌であり、不顕性癌であっても進行癌の臨床病理学的特徴を有し、遠隔転移をきたす症例が約1/4を占めていた。このことから、上皮内癌の段階での早期発見が極めて重要であり、通常の病理診断の観察や全割標本における癌の頻度を中心とした知見が、膵上皮内癌の診療の発展に寄与するものと考えられる。

参考文献: Matsuda Y, Ishiwata T, Yachida S, Suzuki A, Hamashima Y, Hamayasu H, Yoshimura H, Honma N, Aida J, Takubo K, Arai T. Clinicopathological Features of 15 Occult and 178 Clinical Pancreatic Ductal Adenocarcinomas in 8339 Autopsied Elderly Patients. Pancreas. 45:234-40, 2016

図1、不顕性癌の病理像、Hematoxylin & Eosin染色

図1、不顕性癌の病理像、Hematoxylin & Eosin染色