室温や気温の急激な変化に伴う血圧などの循環動態の大きな変動、これによって起こる健康被害のこと。主に入浴時のことを指します。
脱衣: 入浴前に洗面脱衣室で脱衣を行いますが、裸になると寒さにより皮膚温が下がり、深部体温を維持するため末梢血管が収縮し血圧が上昇します。寒さによる血圧上昇は室温が低いほどその上昇は大きいと言われています。
浴槽内: 入浴が身体におよぼす影響は、静水圧、浮力、温熱効果の三つの因子があります。水中では水深1cmにつき1g/cm2の水圧がかかり、これを静水圧といいます。これにより静脈還流(心臓に戻ってくる血液量)が増え、心拍出量の上昇がもたらされますが、心臓の収縮や拡張機能が低下している場合(心不全の方)は心拍出の増加につながりにくいです。また、静脈還流が増えるとレニン、アルドステロン系の亢進を起こし結果的に体内を脱水の方向へ導くこととなります。また、温熱効果によって末梢血管が拡張し血圧低下が起こります。
出浴: 出浴直後は、温浴効果による血管拡張に加えて身体にかかった静水圧が一気に低下することで、起立性低血圧を起こしやすくふらつきやすいです。湯温の違いにより血圧低下の持続は異なり、38度と43度を比較すると43度では出浴後の深部体温上昇の効果が長い影響で血圧低下がより持続します。つまり、出浴後しばらくしてから意識を失う場合もあり注意が必要です。
監察医務院での調査では、平成17年~26年の10年間の検案数をみると、入浴関連死では65歳以上の高齢者の割合が男性で84.2%、女性で92.8%と大半を占めます。
入浴関連死検案例の季節変動をみると、10月から徐々に数が増え始め12月から2月の冬場の寒い時期が夏場の約7倍となっています。
図1 入浴関連死検案例の季節変動
文献:濱松晶彦: 日常生活事故を科学する 浴室内の事故、監察医の目線から より一部改変
高齢者の入浴関連の死亡事故は我が国特有の問題です。欧米ではシャワー浴が主である一方、日本では入浴と言えば湯船に浸かることを連想するほど日常のことです。この伝統的な文化ともいえる入浴スタイルが死亡事故につながってしまっているともいえます。
厚生労働省の人口動態統計による家庭の浴槽での溺死者数は、平成26 年に4,866 人で、平成16 年と比較し10 年間で約1.7 倍に増加しました。また、厚生労働省の研究班の調査では、救急車で搬送された患者数から推計した入浴中の事故死の数は年間約1万9000人(※)とされており交通事故での死亡数よりも多いと予想されます。
※:厚生労働科学研究費補助金 入浴関連事故の実態把握及び予防対策に関する研究 平成25年度 総括・分担研究報告書 研究代表者 堀進悟
入浴関連死の大半は高齢者が占めますが、入浴関連死の原因として従来考えられていた心疾患や脳卒中は実は数が少なく、溺死が多いことが分かっています。もともと元気で自立している方が入浴中に意識消失し、亡くなってしまうこともあります。つまり、生来健康である方も油断はできません。入浴関連死の予防対策として安全な入浴法を実践しましょう。
安全な入浴のための注意事項
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