福祉と生活ケア研究チーム/認知症支援推進センターの永野叙子研究員が第34回日本老年学会総会優秀ポスター(ケアマネジメント学会部門)「優秀演題賞」を受賞しました。
市民後見人の実践力向上を目指すワークショップの取り組みと展望:高齢者の意思決定支援に向けた学びと実践
福祉と生活ケア研究チーム/認知症支援推進センター 永野叙子 研究員
本研究は、成年後見制度のもとで活動する市民後見人の実践力向上を目的に、意思決定支援における「判断の基準」について、ともに考えるワークショップを実施したものです。
2025年2月、A市において、受任・未受任の市民後見人16名を対象に90分のワークショップを実施しました。テーマは「施設入所」や「医療同意」など、実際の支援場面において判断が求められる状況を想定し、模擬事例や図解ツール、ワークシートなどを活用しながら、支援判断における視点や基準について、参加者同士で検討を行いました。
市民後見人は、法定代理人としての責任を担う一方、専門職ではない立場から判断を迫られるため、支援実務において不安や葛藤を抱くことが少なくありません。とくに「本人の意思をどう受けとめるか」「誰の希望を優先すべきか」といった問いに直面した際には、判断の迷いを一人で抱えてしまう傾向があります。
そこで本ワークショップでは、「迷い」を弱さと捉えるのではなく、むしろ支援の出発点と位置づけ、次のような判断のチェックポイントを共有しました:
これらの問いを通じて、参加者は「正解を出すこと」ではなく、「納得できるプロセスをともに考えること」の重要性に気づいていきました。また、支援関係者を図にして整理するワークを通じて、自らが「制度の担い手」であると同時に「支援チームの一員」であることを再認識し、連携の意義を見直すきっかけにもなりました。
「本人の意思に立ち返る視点」「家族や施設の都合に流されていなかったか」「非言語的なサインにどう向き合うか」といった、実際の支援現場で生じる具体的な問いを共有しながら対話を重ねたことで、参加者の支援姿勢にも変化が見られました。未受任者が、受任経験者の語りを通して支援イメージを具体化していく場面もあり、対話的学習の意義が確認されました。
アンケートでは、全員が「実務に活かせる内容だった」と回答し、「迷いを語ることこそ責任ある支援だと気づいた」との声も寄せられました。支援者が孤立せず、自らの判断をチームで共有する姿勢の必要性が、あらためて明らかになりました。
今後は、フォローアップを通じた支援姿勢の継続的変化の検証や、ケアマネジャーら支援関係者との連携深化を図るとともに、後見監督人との協働体制の構築を通じて、制度と実践をつなぐ取り組みへと発展させていく予定です。
永野叙子 研究員