社会参加とヘルシーエイジング研究チーム大都市社会関係基盤研究の竹内真純研究員が日本老年社会科学会第67回大会「奨励賞」を受賞しました。
エイジズムの心理的基盤とその影響 ―ポジティブに老いていくために―
社会参加とヘルシーエイジング研究チーム 大都市社会関係基盤テーマ 竹内真純 研究員
エイジズムとは、高齢者に対する差別や偏見のことを指す。しかしそれは単に「他者への偏見」にとどまらず、いずれ誰もが迎える「老い」をどのように捉えるかという問題でもある。本発表では、エイジズムに関する研究を以下の3側面から紹介し、「老い」をポジティブに捉えることが、他世代から高齢者へのエイジズムを低減させるとともに、高齢者自身のwell-beingを高める可能性を提唱した。
1.高齢者が受ける年齢差別の実態
2024年に実施した調査では、60~79歳の回答者の約15%が、高齢であることを理由に不利な扱いや不快な経験をしたことがあると回答した。具体的には、「就職の年齢制限」「免許更新料が高い」といった制度的なものに加え、「普通にできることをさせてもらえなかった」「扱いが雑になった」といった日常的な言動も多く報告された。これらは、差別の意図の有無にかかわらず相手を傷つける「マイクロアグレッション(Sue, 2007)」と捉えることができる。制度的な差別だけでなく、日常の無意識的な差別にも目を向けていく必要がある。
2.他世代から高齢者へのエイジズム
エイジズムは人種・性別に次ぐ「第3のイズム」と言われるが、人種や性別とは異なり、高齢者には誰もがいずれなるという特徴がある。発表者は、「自分がいずれ高齢者になる」と意識することが、大学生が持つ高齢者への態度にどのような影響を与えるかを検討した。その結果、暗く不幸そうな高齢者像を見た後は、自分が高齢者になると考えることでエイジズムが強まる一方、明るく幸福そうな高齢者像を見た後は、高齢者を自分の将来の姿と見ることでエイジズムが弱まることが示された。「老い」をポジティブに捉えることで、他世代から高齢者への偏見が減少する可能性があると言える。
3.エイジズムの帰結
Levyのステレオタイプ・エンボディメント理論(Levy, 2009)では、若い頃に内面化した否定的なエイジズムが、高齢期に否定的な自己概念となって健康やwell-beingに悪影響を及ぼすとされる。発表では、2つの研究から、年齢差別的な環境に身を置く人ほど老いに対する態度がネガティブであること、そして老いに対してネガティブな高齢者ほど主観的well-beingが低く、後の社会参加も少なくなることを示した。高齢者が老いをポジティブに捉えることが、高齢期のwell-beingの高さにもつながると言える。
今後は、高齢者が年齢差別を感じずに他世代と関われるコミュニケーションのあり方を探るとともに、高齢者が運動や趣味などを通じて「老い」をポジティブに受け止める方法について検討したいと考えている。
竹内真純 研究員