東京都健康長寿医療センターの高橋真由美研究員らは、これまで加齢に伴う脳ミトコンドリア機能の低下の仕組みについて研究を行ってきましたが、今回、ミトコンドリア内にもアクチン繊維が存在し、呼吸機能の調節に重要な役割を果たしているという新知見を得ました。これにより、今後、脳機能の改善に役立つ新しい方法が開発される可能性があります。
[掲載誌] Scientific Reports volume 8, Article number: 15585 (2018)
[掲載論文タイトル、その和訳と著者]
In vitro rejuvenation of brain mitochondria by the inhibition of actin polymerization
アクチン重合阻害による脳ミトコンドリアの若返り
高橋和秀、三浦ゆり、大澤郁朗、白澤卓二、高橋真由美* (*責任著者)
https://www.nature.com/articles/s41598-018-34006-5
加齢に伴う脳ミトコンドリア機能の低下が神経変性疾患の原因として示唆されていますが、メカニズムの詳細はまだ明らかになっていません。私たちはこれまでに、マウスの老化過程で比較的早い時期(ヒトの40代に相当)からパーキンソン病様の変化が現れる事を明らかにしてきました。そこで本研究では、この月齢のマウスにおいて脳ミトコンドリア機能を直接担う呼吸鎖複合体に着目し、加齢変化を詳しく調べ、また低下したミトコンドリア機能の改善法を検討しました。
本研究では、これまで筋肉の収縮や細胞分裂などを担っているとされていたアクチンが、ミトコンドリアの内部にも存在することを発見しました。脳ミトコンドリアの呼吸鎖複合体に結合しているタンパク質を解析したところ、アクチンが同定されました。また、細胞から単離したミトコンドリアをタンパク質分解酵素で処理しても消化されにくい事などからも、アクチンが確かにミトコンドリア内部に局在している事が確認されました。さらに、アクチン重合阻害剤で処理した結果、ミトコンドリア機能の改善が見られたことから、アクチンは大脳ミトコンドリアの機能調節に重要な役割を果たしている事が示唆されました。
高齢化社会を迎えて認知症などの神経変性疾患患者はますます増加し、病態の解明と治療法の開発は急務となっています。神経変性疾患の原因のひとつとして脳ミトコンドリアの機能低下が示唆されていますが、詳細はまだ明らかにされていません。本研究では、パーキンソン病様の諸症状を呈するマウスの脳ミトコンドリア内にアクチンが局在し、ミトコンドリア機能に重要な役割を果たしている事、さらには、アクチンの重合阻害によりミトコンドリア機能が回復する事を明らかにしました。本研究結果から、脳ミトコンドリアの老化メカニズムの更なる解明とその改善法の開発が進むことが期待されます。