第77回日本公衆衛生学会総会にて優秀口演賞、優秀ポスター賞を受賞

社会参加と地域保健研究チームが第77回日本公衆衛生学会総会にて優秀口演賞、優秀ポスター賞を受賞しました。受賞した6名の発表内容は以下の通りになります。

優秀口演賞

「認知機能の変化パターンと医療費及び介護費との関連-草津町研究-」
  社会参加と地域保健研究チーム 研究員 谷口 優

本研究では、2002年に群馬県草津町で開始した疫学研究のデータを用いて、12年間の認知機能の経時的な変化パターンを明らかにするとともに、変化パターン毎に医療費と介護費がどの程度異なるのかを調べました。延べ6,800件のデータから、認知機能は5つの群(高群40.3%、中高群38.8%、中群16.8%、中低群2.2%、低群2.0%)に類型化でき、これらの中で1人当たりの月額総医療費と月額総介護費の合計金額が最も高かったのは、認知機能の低下が徐々に進行していた中群でした(98,200円)。本研究から、認知機能に経時的な低下がみられる高齢者に対して、機能維持・向上の策を講じることが、社会保障費の抑制に寄与することを示しました。

優秀ポスター賞

「大都市在住高齢者の運動実践形態と精神的健康との関連:独居または同居別の検討」
  社会参加と地域保健研究チーム 研究員 清野 諭

1人で運動しているか、あるいは他者と(集団で)運動しているか(運動の実践形態)によって、その効果には差異が生じることがわかっています。本研究では、大都市に住む10,449名を対象に、運動実践形態と精神的健康との関連を家族形態(独居/同居)別に検討しました。その結果、男女とも、独居かつ個人のみでの運動実践は精神的健康(良好)と関連していませんでした。一方、他者との運動実践は、独居/同居に関わらず、精神的健康(良好)と有意に関連しており、その関連の強さは男女とも独居/同居で同程度でした。個人による運動実践を単に啓発するだけではなく、多くの仲間と運動を楽しめる地域・社会環境を整備していくことがより重要であることを報告しました。

「地域内グループを利用したスクワット回数の競争が運動実践におよぼす影響」
  社会参加と地域保健研究チーム 研究員 遠峰 結衣

高齢者の体力を維持するために「週に1回以上の筋力運動」を推奨し、普及を行っています。しかし、2016年7月に65歳以上で介護認定を受けていない15,500名を対象に行った「東京都O区シニアの健康長寿に向けた実態調査」(自記式郵送調査)によると「週1回以上の筋力運動」を実践するものは9.1%でした。本研究では、高齢者の筋力運動の習慣化を最終目標とし、地域内グループを利用したスクワット回数の競争が、その実践数に与える影響を検討し、利用人数や実践回数の増加をもたらすことが明らかとなりました。この競争の影響は、利用人数の増加率以上に実践回数の増加率の上昇をもたらしました。個人の努力のみでは筋力運動の継続は難しいが、地域内グループでの競争をうまくデザインすることで、実践継続へのモチベーションとなる可能性が示されました。

「埼玉県鳩山町における10年間の取り組みの評価と課題」
  社会参加と地域保健研究チーム 研究員 横山 友里

埼玉県鳩山町と当研究チームは「健康づくりのまち・鳩山」の推進と老年学研究への寄与を目的とした共同研究事業を平成21年度に開始し、各種取り組みを展開してきました。本事業では、「要介護認定率の減少」、「社会参加率の向上」、「健康寿命の延伸」を目標として設定しており、本研究ではこれらの達成状況の評価と課題を整理しました。その結果、共同研究事業を開始以降、介護認定率は低下傾向にあり、社会参加状況については、スポーツや運動の実践率の向上などがみられ、健康寿命は延伸していました。本共同研究事業の各種取り組みが鳩山町における健康長寿のまちづくりへ貢献できていることが推察されました。

「ジェネラティビティと精神的健康状態の関連について」
  社会参加と地域保健研究チーム 研究員 倉岡 正高

ジェネラティビティ(次世代継承観)と心の健康度の関連の検証を目的に、首都圏2地区で実施した郵送調査から、65歳以上2,316人を分析しました。従属変数としてWHO-5、独立変数としてジェネラティビティをHopkins Generativity Index日本語簡易版及び個人の性、年齢、教育年数等を重回帰分析により検証しました。結果、有意なモデルが得られ、ジェネラティビティが最もWHO-5に寄与していました(β=.38,P<.001)。地域でのジェネラティビティの醸成が、高齢者の精神的健康度に寄与する可能性が示唆されました。

「高齢者における世代間援助の授受と主観的健康感の相互関係:CAPITAL studyより」
  社会参加と地域保健研究チーム 研究員 村山 陽

高齢者における非親族からの世代間援助の受領および提供と主観的健康感との相互関係について検証するために、埼玉県和光市の20歳以上の市民から無作為に抽出された7,000人を対象に郵送調査を行いました。初回調査は2014年に行われ、その後、同一の対象者に対して2016年に追跡調査を実施しました。交差遅延モデルおよび同時効果モデルを用いて検討した結果、高齢世代が地域や職場の若年世代に援助を提供することは、その後に若年世代から援助を受けることにつながるとともに、それが結果として高齢者の主観的健康感を高める可能性が示唆されました。