<プレスリリース>一人暮らしによる健康リスクは、人のつながりにより緩和される

発表内容の概要

東京都健康長寿医療センター研究所の藤原佳典研究部長の研究グループは、健康状態に問題のない高齢者では、独居といった居住形態ではなく、他者とのつながりが乏しい者(いわば、社会的孤立者)ほど身体機能低下、抑うつ、要介護状態等のリスクが高いことを明らかにしました。
この研究成果は、国際雑誌「JAMDA (Journal of the American Medical Directors Association)」オンライン版に(4月15日付)に掲載されました。

研究成果の概要

これまで高齢期の独居は、健康を害する可能性がある社会的リスクであるとする研究報告がされてきました。しかしながら、我々は単純に独居が悪いわけではなく、他者とのつながり(すなわち、社会的ネットワーク)が乏しくなることが健康に悪影響を与えているのではないかと考えてきました。そこで我々の研究チームでは、2015年に板橋区で行った健康調査「お達者健診(代表:大渕修一研究部長)」に参加した400名の健康上問題のない高齢者を、居住形態(独居もしくは非独居)と社会的ネットワークの多寡(他者とのつながりが乏しい群と乏しくはない群)と組み合わせで4群に分け、2年後の健康状態の変化を検証しました。
この際、社会的ネットワークの多寡に関しては、親族や友人を含めた交流範囲や困ったときに相談できる親族や友人の範囲を調べ得点換算できるLubben Social Network Scaleという尺度を用い、得点が低い下位25%を他者とのつながりが乏しい群(図中:低社会ネットワーク群)と定義しました。
研究の結果、居住形態にかかわらず、他者とのつながりが乏しい者では健康悪化リスクが高まることがわかりました。特に要介護認定率では、誰かと同居しているにもかかわらず他者とのつながりが乏しい者ほどリスクが高いことが分かりました。

居住形態と社会的ネットワークの多寡の関係性

研究参加者を居住形態と社会的ネットワークの多寡で分けた際の健康状態の悪化リスクの抜粋

非独居者で社会的つながりが高い者を基準とした場合(青)、独居・非独居関係なく、社会的つながりが低い群(赤・ピンク)では、様々な障害リスクが高いことが分かる(縦軸は基準である青棒に対する各障害の発生リスクを示す)。
発生リスクは、性、年齢、教育年数、服薬数、既往歴を調整しても統計学的に有意

研究成果の意義

日本では、高齢男性の8人に1人、高齢女性の5人に1人は独り暮らしであると推計されています。高齢期の独り暮らしでは様々な問題が起こることが想定されますが、周りのサポートを適切に受けることにより、安心で健康な暮らしを維持できると考えられます。事実、本研究から健康な高齢者では居住形態より、むしろ他者とのつながりの有無が健康維持に重要であることが示されました。

他方で、最初から健康状態が悪い高齢者の一人暮らしは、その後の健康状態を悪化させてしまう可能性も報告されています。したがって健康なうちは他者との交流を楽しみながら健康を維持し、健康状態が不安になってきたらサポートが得られる住環境を求める必要があるといえます。

掲載論文について

 国際科学雑誌JAMDA (Journal of the American Medical Directors Association)

(オンライン版掲載 現地時間4月15日付)

Poor Social Network, Not Living Alone, Is Associated With Incidence of Adverse Health Outcomes in Older Adults

(居住形態よりむしろ、社会的つながりの多寡が高齢者の健康状態悪化に関連する)

プレス発表資料