<プレスリリース>咽頭への刺激で甲状腺からのホルモン分泌が増えることを発見

発表内容の概要

東京都健康長寿医療センター研究所の堀田晴美研究部長らの研究グループは、甲状腺からのホルモン分泌が、自律神経によって調節されることを、甲状腺を支配する交感神経や副交感神経を電気刺激する実験で明らかにしてきました。今回、甲状腺支配の副交感神経が、咽頭への刺激によって活性化され、甲状腺からのホルモン分泌を増やすことをつきとめました。この研究成果は、これまで未解明だった、口から食べることが高齢者の健康維持に関わるしくみを示しました。研究成果は令和元年7月3日に日本生理学会の主催する国際ジャーナル The Journal of Physiological Sciences にオンライン掲載されております。

研究成果の背景

最近、オーラルヘルスと健康寿命との関係が注目されています。高齢者では口腔機能が低下すると、経管栄養の有無にかかわらず、認知機能の低下や全身のフレイルを招きやすいことが知られています。しかし、それがなぜかは良くわかっていません。私たちは全身の代謝を調節するホルモンを分泌する甲状腺に注目し研究してきました。その過程で、甲状腺からのホルモン分泌が、上喉頭神経(副交感神経)という神経の活動によって素早く増加することをつきとめました。上喉頭神経には、口から入った食べ物の通り道である咽頭からの感覚情報を脳に伝える感覚神経が含まれています。また、この神経の活動は嚥下反射を誘発することも知られています。このことから、咽頭への刺激によって甲状腺からのホルモン分泌が促進されると予想し、今回、麻酔ラットの咽頭に、食べ物を飲み込むときのような機械的刺激を与えて、甲状腺からのホルモン分泌がどうなるかを調べました。

研究成果の概要

甲状腺からのサイロキシンとカルシトニンの分泌が、咽頭の機械的刺激によってどのような影響を受けるのか、ラットを使って調べました。心理的な影響を取り除くために、ラットを麻酔し、意識のない状態で実験をおこないました。やわらかいバルーンを出し入れすることで、咽頭を刺激しました。

 咽頭刺激の間、サイロキシンとカルシトニンの分泌が、刺激前の約2倍に増加しました。この分泌反応は、上喉頭神経を切断することで完全に消失しました。上喉頭神経の求心性神経の活動と甲状腺に分布する副交感神経の活動は、咽頭刺激中に増加しました。

研究の意義

以上の結果は、咽頭の機械的刺激が、上喉頭神経感覚神経を活性化することで、甲状腺支配の副交感神経が刺激され、サイロキシンとカルシトニンの分泌を促進することを示しています。サイロキシンは、全身の細胞の代謝を高め、カルシトニンは骨の細胞に作用して骨を強くします。従って、口から食べることが高齢者の心身の健康維持に役立つしくみに、新たに明らかとなったこの生理的反応が関与していると考えられます。

掲載論文について

  • 【掲載誌】
    日本生理学会の国際ジャーナル 「The Journal of Physiological Sciences」(オンライン掲載 7月3日)

  • 【掲載論文の英文表題とその和訳】
    Thyroxin and calcitonin secretion into thyroid venous blood is regulated by pharyngeal mechanical stimulation in anesthetized rats
    (甲状腺静脈血へのサイロキシンとカルシトニンの分泌は麻酔ラットにおいて咽頭の機械的刺激によって調節される)

  • 【掲載論文の著者】
    Kaori Iimura(飯村佳織), Harue Suzuki(鈴木はる江), Harumi Hotta*(堀田晴美)
    (*責任著者)

掲載論文の要旨

目的:甲状腺からのサイロキシンとカルシトニン、および副甲状腺からのパラソルモンの甲状腺静脈血への分泌に対する咽頭の機械的刺激の効果を調べることを目的とした。

方法: 麻酔ラットの甲状腺静脈を経時的に採取し、サイロキシン、カルシトニン、およびパラソルモンの分泌速度を、甲状腺静脈血漿中の濃度と血漿流速から算出した。ゴム製のバルーンを断続的に舌の上から咽頭腔に押し込むことで、咽頭に機械的刺激を与えた。

結果:咽頭刺激はサイロキシンとカルシトニンの分泌を増加させたが、パラソルモンの分泌は変化しなかった。分泌反応は、上喉頭神経を左右とも切断することによって消失した。 上喉頭神経中の感覚神経の活動と、甲状腺支配の副交感神経の活動は、咽頭刺激中に顕著に増加した。

結論:咽頭の機械的刺激は、上喉頭神経中の感覚神経を興奮させ、その結果甲状腺支配の副交感神経の活動を増加させて甲状腺からのサイロキシンとカルシトニンの分泌を促進させることを明らかにした。

研究チーム

東京都健康長寿医療センター研究所 老化脳神経科学研究チーム 自律神経機能
堀田晴美研究部長、鈴木はる江協力研究員、飯村佳織非常勤研究員

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   プレス資料