老年病理学研究チームの志智優樹研究生と老年病態研究チームの佐々木紀彦研究員らが膵がん研究における3次元培養の重要性を『Scientific Reports』に発表

英国の電子版科学雑誌『Scientific Reports』に、老年病理学研究チーム(高齢者がん研究)の志智優樹研究生(日本獣医生命科学大学)、老年病態研究チーム(心血管老化再生医学)の佐々木紀彦研究員、老年病理学研究チーム(高齢者がん研究)の石渡俊行研究部長らは「3次元培養により上皮系または間葉系性質を有する膵がんの形態、機能の相違が明瞭となる」ことを報告しました。

論文情報

Enhanced morphological and functional differences of pancreatic cancer with epithelial or mesenchymal characteristics in 3D culture
「3次元培養により上皮系または間葉系性質を有する膵がんの形態、機能の相違が明瞭となる」

Shichi Y*, Sasaki N*, Michishita M, Hasegawa F, Matsuda Y, Arai T, Gomi F, Aida F, Takubo T, Toyoda M, Yoshimura H, Takahashi K, Ishiwata T. *co-first author.(志智優樹*、佐々木紀彦*、道下正貴、長谷川文雄、松田陽子、新井冨生、五味不二也、相田順子、田久保海誉、豊田雅士、吉村久志、高橋公正、石渡俊行. *共同筆頭著者)

発表雑誌

「Scientific Reports」(2019年7月26日電子版に発表)

https://www.nature.com/articles/s41598-019-47416-w

論文概要

膵がんは高齢者に多く発症するがんで早期発見が難しく、手術以外に完治に繋がる治療法がないことから難治性のがんと言われています。超高齢社会の本邦で膵がんは男女ともに急増していますが、膵がんがさまざまな形態や性質のがん細胞から構成されているため、人の体内で膵がんがどのように増えたり転移するのかは解明されていません。本論文では膵がん細胞を立体的に培養(3次元培養)し、人体内に類似した環境で膵がん細胞の形態と機能的な特徴を解析しました。

その結果、以下のことが明らかとなりました。

  1. 通常の接着培養下で膵がん細胞には上皮様の性質を示すがん細胞と、間葉系の性質を示すがん細胞の2種類が存在することがわかりました。
  2. 上皮様の膵がん細胞は3次元培養で、球形の浮遊細胞塊(スフェア)を形成し表面を覆う扁平ながん細胞が認められました。上皮様の膵がん細胞には分泌顆粒や微絨毛が多く、Cytokeratin 7、トリプシンなどを発現しており正常の膵臓細胞への分化がみられました。細胞増殖マーカーのKi-67はスフェア周囲を被覆する扁平ながん細胞にのみ認められ、増殖極性が確認されました。
  3. 間葉系の性質を示す膵がん細胞は3次元培養で、不整形のスフェアを形成し分化成熟傾向は乏しく、Ki-67陽性細胞はスフェア全体にびまん性に分布し増殖の極性は認められませんでした。
  4. 上皮様性質を示す膵がん細胞のPK-1細胞は、Smad4が免疫染色で陰性で、TGF-β1の投与により上皮間葉転換(EMT)が誘導されませんでした。
  5. 間葉系性質を示す膵がん細胞のPANC-1細胞はSmad4が陽性でTGF-β1投与によりEMTが誘導されました。

膵がん細胞の上皮間葉系性質の違いが、3次元培養により明瞭になりました。膵がん細胞の上皮様形態と機能の保持には、TGF-βシグナル伝達系が関与していることが示唆されました。3次元培養を用いた研究は多様性を有する膵がんの個別診断や、個別治療法の開発に有用であることが明らかになりました。