<プレスリリース>乳酸菌ラクトバチルス カゼイ シロタ株を含む乳製品の高頻度の摂取と 適度な運動の組み合わせが高齢者の便秘リスクの低減に効果的であることを発見

株式会社ヤクルト本社(社長 根岸 孝成)と、東京都健康長寿医療センター研究所の青栁 幸利専門副部長は、群馬県吾妻郡中之条町(以下、中之条町)に在住の高齢者を対象に、乳酸菌ラクトバチルス カゼイ シロタ株(以下、L.カゼイ・シロタ株)を含む乳製品の摂取頻度および日常的な身体活動(適度な運動)と便秘リスクとの関係を疫学的に調査しました。その結果、以下の3点が明らかとなりました。

  1. L.カゼイ・シロタ株を含む乳製品の摂取頻度が高いほど便秘になるリスクが低く、糞便中の乳酸菌数が多い
  2. 1日7000歩以上歩く高齢者は便秘になるリスクが低い
  3. L.カゼイ・シロタ株を含む乳製品の高頻度の摂取と適度な運動(1日7000歩以上歩くこと)の組み合わせは便秘リスクの低減に効果的

これらの結果は、L.カゼイ・シロタ株を含む乳製品の高頻度の摂取と、定期的に運動することが、便秘対策として有効であることを示唆しています。本研究結果は、学術雑誌「Frontiers in Microbiology」(2019年7月31日付)に掲載されました。

便秘で悩む高齢者が乳酸菌を含む乳製品の摂取+適度な運動で便秘リスクの低減に効果的

1.背景

L.カゼイ・シロタ株を含む乳製品は、ヒトでの臨床研究により整腸効果を示すことが報告されています。しかし、日常生活を営む一般住民を対象とした疫学調査においては、L.カゼイ・シロタ株を含む乳製品の摂取が排便状況に与える影響は十分に検討されていませんでした。便秘は高齢者で増加することが報告されていますが、生活の質を低下させるだけでなく、腸内菌叢が乱れて腸内腐敗産物の産生が高まることで、大腸がん発症のリスクを高めることも懸念されています。便秘の改善には、食生活や身体活動など、生活習慣の見直しが効果的であると言われていることから、今回、中之条町に在住の高齢者を対象として、L.カゼイ・シロタ株を含む乳製品の摂取頻度および身体活動量と便秘リスクとの関係を検証しました。

2.研究成果

(1)L.カゼイ・シロタ株を含む乳製品の摂取頻度と便秘リスクおよび糞便菌叢との関係

中之条町に在住の高齢者338名(男性140名、女性198名)を対象に、糞便細菌叢、採便前1か月間のL.カゼイ・シロタ株を含む乳製品の摂取頻度、身体活動量および採便前1週間の排便頻度を調べ、排便頻度が「週3日以下」の方を便秘者と定義しました。L.カゼイ・シロタ株を含む乳製品の摂取頻度をもとに週0-2日群(204人)、週3-5日群(54人)および週6-7日群(80人)の3群に分けたところ、各群の便秘者の割合はそれぞれ14.2%、9.3%、8.8%でした。便秘に関与するとされる年齢、性別、体格指数(以下、BMI)、喫煙および飲酒の影響を調整した統計解析を行うと、L.カゼイ・シロタ株を含む乳製品の摂取頻度が高いほど便秘リスク(オッズ比)は低くなることが認められました。週0-2日群の便秘リスクを1としたときの週6-7日群のリスクは0.382であり、有意に低い値を示しました。(図1)。

図1L.カゼイ・シロタ株を含む乳製品の摂取頻度と便秘リスク.png

図1. L.カゼイ・シロタ株を含む乳製品の摂取頻度と便秘リスク

L.カゼイ・シロタ株を含む乳製品の摂取頻度が高いほど便秘リスク(オッズ比)は低くなることが認められ、週0-2日群と比較して週6-7日群の便秘リスクは有意に低かった。

糞便中の細菌数は、ヤクルト本社独自の腸内フローラ解析システムYakult Intestinal Flora-SCAN(YIF-SCAN®)により、21の菌群・属・種の菌数を測定しました。

糞便中の乳酸桿菌の菌数およびL.カゼイ・シロタ株が属するラクトバチルス カゼイ サブグループ※1の菌数は、L.カゼイ・シロタ株を含む乳製品の摂取頻度が高いほど菌数が多くなり、週0-2日群に比べて、週3-5日群および週6-7日群の各菌数が有意に高値を示しました。また、週6-7日群のラクトバチルス カゼイ サブグループ菌数は、週3-5日群に比べても、有意に高値を示しました(図2)。

※1 乳酸桿菌のうち、L.カゼイとその近縁の菌であるL.ラムノーサスおよびL.ゼアエを含むグループ

乳酸桿菌数                       ラクトバチルス カゼイ サブグループの菌数

図2.L.カゼイ・シロタ株を含む乳製品の摂取頻度と糞便中の乳酸桿菌数および.png

図2. L.カゼイ・シロタ株を含む乳製品の摂取頻度と糞便中の乳酸桿菌数およびラクトバチルス カゼイ サブグループの菌数(平均値)

L.カゼイ・シロタ株を含む乳製品の摂取頻度が高いほど糞便中の乳酸桿菌およびラクトバチルス カゼイ サブグループの菌数が多かった。

(2)身体活動量と便秘リスクとの関係

解析対象者338人のおおよその平均歩数である1日7000歩で群分けを行ったところ、7000歩以上群(151人)の便秘者の割合は6.6%であり、7000歩未満群(187人)の16.6%と比較して有意に低い値でした。また、年齢、性別、BMI、喫煙および飲酒習慣の影響を調整した統計解析の結果、7000歩未満群の便秘リスク(オッズ比)を1としたとき、7000歩以上群のオッズ比は0.441であり、有意に低い値を示しました。同様に、息が上がるくらいの運動である中強度活動の実施時間が1日に15分未満の群(188人)の便秘リスク(オッズ比)を1としたとき、15分以上群(150人)のオッズ比は0.412であり、有意に低い値を示しました(図3)。一方、糞便中の各種細菌の菌数に群間差は認められず、1日7000歩以上群および中強度活動時間15分以上群において便秘リスクが低いことは、腸内菌叢の変化とは別の要因が関与する可能性が考えられました。

1日あたりの歩数                       中強度活動時間

図3. 1日あたりの歩数および中強度活動時間と便秘リスク

身体活動量が多い群の便秘リスク(オッズ比)は有意に低かった。

(3)L.カゼイ・シロタ株を含む乳製品の摂取頻度と身体活動量(1日7000歩未満および7000歩以上)の組み合わせと便秘リスク

解析対象者338人をL.カゼイ・シロタ株を含む乳製品摂取頻度(週0-2日、週3-5日および週6-7日)と身体活動量(1日7000歩未満および7000歩以上)を組み合わせた6群に群分けし、年齢、性別、BMI、喫煙および飲酒習慣の影響を調整した統計解析を行って、便秘リスク(オッズ比)を比較しました。

その結果、L.カゼイ・シロタ株を含む乳製品の摂取頻度が高く、1日7000歩以上の群では便秘リスクが低い値を示しました。L.カゼイ・シロタ株を含む乳製品を週0-2日摂取かつ1日7000歩未満群のオッズを1とした時、L.カゼイ・シロタ株を含む乳製品を週6-7日摂取かつ1日7000歩以上群のオッズ比は0.121となり、有意に低い値を示しました(表1)。

表1. L.カゼイ・シロタ株を含む乳製品摂取頻度と1日あたりの歩数を組み合わせた場合の便秘リスク(オッズ比)

* L.カゼイ・シロタ株を含む乳製品週0-2日摂取かつ1日7000歩未満群と比較して有意な差あり

(4)結論

中之条町の高齢者では、L.カゼイ・シロタ株を含む乳製品摂取頻度が高いほど腸内の乳酸桿菌およびラクトバチルス カゼイ サブグループの菌数が多いことと、便秘リスクが低いことが明らかになりました。また、L.カゼイ・シロタ株を含む乳製品の摂取と身体活動は異なるメカニズムを介して排便状況を改善し、L.カゼイ・シロタ株を含む乳製品の摂取と身体活動をあわせて行うと、より一層、便秘リスクが低下する可能性も示されました。

3.今後の期待

今回の調査では、L.カゼイ・シロタ株を含む乳製品を週6日以上摂取し、1日7000歩以上歩くと高齢者の便秘リスクの低減に効果的である可能性が示されました。これまでの中之条町における調査にて得られた、L.カゼイ・シロタ株を含む乳製品の習慣的摂取による高血圧発症リスクの低減※2、今回の知見に引き続き、今後もL.カゼイ・シロタ株を含む乳製品の摂取による新たな可能性を追究してまいります。

※2 2016年12月7日付ニュースリリース

乳酸菌ラクトバチルス カゼイ シロタ株を含む乳製品の習慣的摂取が高齢者の高血圧発症リスクを低減
https://www.yakult.co.jp/news/article.php?num=1030

4.論文情報

雑誌名: Frontiers in Microbiology (https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fmicb.2019.01477/full

論文表題: Independent and interactive effects of habitually ingesting fermented milk products containing Lactobacillus casei strain Shirota and of engaging in moderate habitual daily physical activity on the intestinal health of older people

著者:Yukitoshi Aoyagi, Ryuta Amamoto, Sungjin Park, Yusuke Honda, Kazuhito Shimamoto, Akira Kushiro, Hirokazu Tsuji, Hoshitaka Matsumoto, Kensuke Shimizu, Kouji Miyazaki, Satoshi Matsubara, Roy J. Shephard

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