<プレスリリース>「食」で向き合う糖尿病 「あなたの適量がわかった‼」 食べ過ぎ・食べなさ過ぎの危険性

ポイント

高齢者の糖尿病では

  • 摂取エネルギー量(カロリー)が多すぎても少なすぎても死亡リスクが高くなる
  • 標準体重よりも年齢を考慮した目標体重の方が、過不足なくエネルギー量を設定できる
  • 年齢を考慮して、過不足なくエネルギー摂取量を設定することが望ましい

概要

 東京都健康長寿医療センター糖尿病・代謝・内分泌内科の大村卓也(現・研究所研究員)、荒木厚(副院長)らの研究グループは、高齢者糖尿病における理想的な摂取エネルギー量(カロリー)を、J-EDIT研究(代表:井藤英喜・名誉理事長)のデータをもとに解析しました。研究成果は日本老年医学会の英文誌であるGeriatrics & Gerontology Internationalに掲載されます。

研究目的

 我が国では、これまで標準体重(身長の2乗に22をかけた体重)と身体活動量にもとづいて一日の摂取エネルギー量の目安を算出していました。加齢とともにサルコペニア・フレイルなどが増加しますが、低栄養はこれらの病態を悪化させうることから、高齢者の糖尿病の食事療法は、単に制限するだけではなく、フレイルの対策のために「不足なく摂る」という考え方が出てきました。

 そこで、高齢の糖尿病患者における望ましい摂取エネルギー摂取量を明らかにするために、6年間の追跡調査によって体重あたりのエネルギー摂取量と死亡リスクとの関係について検討してみました。

研究成果

 摂取エネルギー量を小さい方から大きい方に4群に分け、各群の死亡リスクを計算しました(図)。摂取エネルギー量は「多すぎても少なすぎても死亡リスクが高くなる」ことが分かりました。特に、肥満を伴う人でエネルギー量が不足していると、死亡リスクが高いことも明らかになりました。

 身長の2乗に22を掛けて求めた標準体重をもとに摂取エネルギー量を算出すると、高齢者ではエネルギー量が不足する懸念があり、患者さんの年齢を考慮した目標体重の方が、過不足なくエネルギー量を設定できると考えられました。この研究結果は、日本糖尿病学会の「糖尿病診療ガイドライン2019」の高齢者の目標体重は身長の2乗に22~25を掛けて柔軟に設定するという推奨を支持するものです。

意義

 高齢者の糖尿病にとって、どのような食事が長寿のために効果的であるのか、世界中で研究が行われていますが、食事は人種差が大きいため、我が国の研究成果は極めて重要になります。

この研究により、高齢者糖尿病の食事療法は、単に制限するだけではなく、「過不足なく摂る」ということが大切であることが分かりました。おそらく、高齢者ではエネルギー量が不足するとフレイルや低栄養をきたして死亡しやすくなるのではないかと考えています。

 実際、自分がどれくらいのエネルギー量を摂取しているかは把握が難しいので、外来で医師や栄養士に相談することが大切です。

タイトル

Assessing the association between optimal energy intake and all-cause mortality in older patients with diabetes mellitus using the Japanese Elderly Diabetes Intervention Trial

Geriatrics & Gerontology International(2019年11月27日頃掲載予定)

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/ggi.13820

図.摂取エネルギー量と死亡リスク.png

図. 摂取エネルギー量と死亡リスク

高齢糖尿病患者1,163 人を約6年間追跡したJEDIT研究のデータを用いて、摂取エネルギー量と死亡リスクの関連を解析した。エネルギー摂取量は体格の影響を受けることから、体重あたりの一日摂取エネルギー量を四分位に分け(Q)、各群における死亡ハザード比を算出した。エネルギー量と死亡リスクの形は「U字型」を呈しており、摂取エネルギー量が多すぎても少なすぎても死亡リスクが高くなることが明らかになった。

問い合わせ先

東京都健康長寿医療センター 
糖尿病・代謝・内分泌内科
副院長・内科統括部長 荒木 厚
E-mail: aaraki@tmghig.jp

研究員・医員 大村 卓也
E-mail: takuya_omura@tmghig.jp
Tel: 03-3964-1141 Fax: 03-3964-1392

プレス資料