<プレスリリース>「副腎のテロメアが男女の寿命差に関係する?」

発表内容の概要

東京都健康長寿医療センター研究所の老年病理学研究チーム 高齢者がん研究グループは、東北大学、東京都保健医療公社豊島病院の研究グループと共同で、高齢期(65歳以上)の男性では生命維持に重要なホルモンを合成・分泌する副腎(図1)の重量が加齢に伴い減少し、高齢女性では変化しないことを明らかにしました。また、加齢に伴い減少することから「命の回数券」と呼ばれる染色体末端のテロメア(図2)が、高齢男性の副腎では高齢女性に比べて短いことも示しました。今回、未解明な点が多い男女の寿命差が副腎のテロメアと関連する可能性を世界で初めて報告しました。研究成果は、内分泌および代謝分野の国際医療機関ジャーナル「The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism」に2019年11月20日付けでオンライン掲載されています。

研究の背景

国や人種に関係なく女性が男性よりも長命であることが知られていますが、その背景にある細胞学的・分子生物学的なメカニズムは解明されていません。すべての細胞の染色体末端にはテロメアという構造が位置し、染色体を変性・消失などから保護しています。このテロメアがある一定レベルより短くなると、細胞は壊れやすくなります。血液細胞のテロメア長は若い世代から女性の方が長いため、このテロメア長の差が男女の寿命差につながるという説がこれまで有力でした。しかし、高齢になると血液細胞テロメア長の男女差が小さくなるため、これだけでは説明できません。私たちは、生命活動に重要な様々なホルモンを合成・分泌する副腎のテロメア長の男女差に注目し研究してきました。副腎は左右腎臓の上方にそれぞれ1個ずつ位置する小さな臓器です。特に、副腎の大半の体積を占める束状層という領域からは抗炎症作用・抗ストレス作用など生命活動に極めて重要なホルモンが合成・分泌されています。

研究成果の概要

乳児から超高齢者まで、病理解剖から得られたヒト副腎のテロメア長を解析し、その加齢性変化や男女差を調べました。本研究の結果、65歳以上の高齢期では男性の副腎重量は減少する一方、高齢女性の副腎重量には変化がみられないことが明らかになりました。また、高齢期では女性に比べて男性の方が上述の束状層という領域のテロメアが短いことが分かりました。

研究の意義

以上の結果から、高齢男性の副腎では束状層細胞のテロメア減少が細胞変性・脱落を引き起こし、副腎重量を減少させていると考えられます。束状層細胞は生命活動に極めて重要なホルモンを分泌することから、高齢男性における束状層細胞の減少は、男女の寿命差に関係している可能性があります。

掲載論文について

雑誌名:内分泌および代謝分野の国際医療機関ジャーナル 「The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism」(オンライン掲載 11月20日)

論文タイトル:Correlation between Telomere Attrition of Zona Fasciculata and Adrenal Weight Reduction in Older Men(高齢男性では副腎束状層のテロメア減少と重量減少が相関する)

著者:野中敬介1,3, 相田順子2, 田久保海誉2, 山﨑有人3, Xin Gao3, 小松明子1, 高熊将一朗1, 柿﨑元恒1, 井下尚子1, 五味不二也2, 石渡俊行2, 鄭子文4, 新井冨生1, 笹野公伸3 (人名の後の数字は所属機関)
1東京都健康長寿医療センター 病理診断科
2東京都健康長寿医療センター研究所 老年病理学研究チーム 高齢者がん研究
3東北大学大学院・医学系研究科病理診断学分野
4公益財団法人東京都保健医療公社豊島病院・検査科
論文公開URL:https://academic.oup.com/jcem/advance-article/doi/10.1210/clinem/dgz214/5634040
論文番号 (DOI):10.1210/clinem/dgz214
PMID:31745564

図1 副腎は左右腎臓の上方に位置する

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図2 テロメアは染色体末端に位置する

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(問い合わせ先)
東京都健康長寿医療センター 病理診断科 医員
同研究所 高齢者がん研究グループ 協力研究員 野中敬介
電話 03-3964-1141(内線2411)  keisuke_nonaka@tmghig.jp

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