<プレスリリース>「100万人のレセプト情報から解明:東京都の75歳以上高齢者の6割超が5種類以上の薬剤を内服」

東京都健康長寿医療センター研究所の石崎達郎研究部長らの研究グループは、レセプトデータを使って75歳以上の高齢者(後期高齢者)の外来診療における医薬品処方の実態を把握したところ、5種類以上の処方(多剤処方)があった者は64.0%と、後期高齢者においては多剤処方が例外ではないことを解明。この研究成果が英文専門誌「Geriatrics & Gerontology International」に掲載されました。

研究の目的

高齢者人口の増加に伴い、慢性疾患を複数抱える高齢者が増加し、結果として多くの薬剤を処方されている高齢者が増えています。薬剤数が増えるほど、服薬管理が複雑になるだけでなく、薬剤有害事象のリスクが高くなり、高齢者医療において多剤処方は大きな課題となっています。本研究は、東京都の75歳以上の高齢者を対象に、レセプトデータを使って外来診療で処方された薬剤を把握し、処方状況、処方パターン、多剤処方のリスク要因の検討を行いました。

研究成果の概要

処方されている薬剤数の平均(標準偏差)は6.4(3.8)種類、中央値(四分位範囲)は6(3-9)種類、5種類以上の処方があった者(多剤処方)は全体の64.0%を占め、75歳以上の高齢者に対する多剤処方は標準であり、例外的な処方ではありませんでした。
薬剤種類別の処方割合は、降圧薬が66.5%と最も高く、睡眠薬・抗不安薬は28.8%でした。

併用パターンを判定したところ、次の5パターンが同定されました。
パターン1:利尿薬・抗凝固薬・尿酸低下薬・鉄剤
パターン2:抗うつ薬・抗不安薬や睡眠薬・抗精神病薬
パターン3:骨粗鬆症治療薬・鎮痛薬・胃酸分泌抑制薬
パターン4:抗血小板薬・脂質低下薬・降圧薬・抗糖尿病薬
パターン5:抗認知症薬・抗精神病薬

また本研究から、多剤処方になりやすい薬剤種類として、鎮痛薬、利尿薬、抗不安薬・睡眠薬、骨粗鬆症治療薬、抗糖尿病薬が同定されました。

研究の意義

高齢者の外来処方における併用パターンを示した研究は、国内で初めてです。薬剤の併用パターンが明らかになったことで、併存疾患の治療を反映した診療ガイドラインを開発することが可能となり、その中で薬剤有害事象リスクが高くなりやすい薬剤併用例を提示することができます。これによって、薬剤有害事象の予防対策を効率よく検討することができます。
服薬指導の対象となる多剤処方者の把握には、個々の高齢者の処方を調べる必要がありますが、複数の医療機関から薬剤を処方されている場合が多く、すべての受診医療機関からの処方情報を統合するには、たいへんな手間がかかります。今回の研究で把握された情報を使うことで、多剤処方のハイリスク者を簡便に抽出することができます。

【掲載論文について】

タイトル Drug prescription patterns and factors associated with polypharmacy in over one million older adults in Tokyo
Geriatrics & Gerontology International(2020年2月12日掲載)
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/ggi.13880
著者 Tatsuro Ishizaki 1, Seigo Mitsutake 1, Shota Hamada 2, Chie Teramoto 3, Sayuri Shimizu 2, Masahiro Akishita 4, Hideki Ito 5
石崎達郎、光武誠吾、浜田将太、寺本千恵、清水沙友里、秋下雅弘、井藤英喜
1:東京都健康長寿医療センター研究所 福祉と生活ケア研究チーム、2:医療経済研究機構、3:東京大学大学院医学系研究科 地域看護、4:東京大学大学院医学系研究科 老年医学、5:東京都健康長寿医療センター
*:責任著者 石崎達郎

(問い合わせ先)
東京都健康長寿医療センター研究所(電話 03-3964-3241)
福祉と生活ケア研究チーム
研究部長 石崎達郎
E-mail: tatsuro@tmig.or.jp

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