<プレスリリース>「退院支援サービスの退院直後の再入院抑制効果の検証」

東京都健康長寿医療センター研究所の石崎達郎研究部長、光武誠吾研究員らの研究グループは、急性期病院でリハビリテーションを受けた後に自宅などへ退院した75歳以上約3万名分のレセプト(診療情報明細書)情報を分析し、医療保険制度で提供された退院支援サービスは退院直後の再入院に対して抑制効果を認めないことを示しました。この研究成果は、リハビリテーション医学分野におけるトップジャーナルである「Archives of Physical Medicine and Rehabilitation」に掲載されています。

研究の目的

高齢患者にとって、入退院を繰り返すなどの療養環境の変化は心身機能への大きな負担となるため、退院直後(30日以内)の再入院は回避すべきと考えられています。そこで医療保険制度でも、退院後の生活がスムーズに送れるように退院計画や患者・ご家族へのセルフマネジメント指導などの退院支援サービスが提供されていますが、このサービスが退院直後の再入院発生に及ぼす効果については明らかではありませんでした。本研究では、退院直後の再入院予防策のあり方を検討するため、リハビリテーションを受けた退院患者を対象に、各退院支援サービス(退院計画、退院時リハビリテーション指導、地域ケアとの連携)の利用と退院直後の予防可能な再入院発生との関連を見ることを目的にしました。

研究成果の概要

退院直後に再入院した退院患者は974名(2.8%)で、特徴として、入院前に在宅医療で治療を受けていた人、入院中に一日あたり多くのリハビリテーションを受けていた人、フレイルのリスクが高い人が退院直後の再入院発生率が高いことがわかりました。また分析の結果、退院計画、退院時リハビリテーション指導、地域ケアとの連携など、すべての退院支援サービスは退院直後の再入院に対して抑制効果が認められませんでした。

研究の意義

前述のように、わが国の医療保険制度における個々の退院支援サービスは、退院直後の再入院に対して抑制効果が認められませんでしたが、欧米では、退院計画・セルフマネジメント指導・地域ケアとの連携・退院後のフォローアップなどを組み合わせた「移行期ケアプログラム」の退院直後の再入院抑制効果が報告されています。今後、わが国の医療保険制度においても、個々の退院支援サービスをパッケージ化した移行期ケアプログラムの開発し、退院直後の再入院への抑制効果を検証していくことが必要です。本研究はそのための基礎研究としての意義を持ち、今回の結果を前向きに捉えて、次につなげることが期待されます。

【掲載論文について】

「Archives of Physical Medicine and Rehabilitation」(2020年1月7日掲載)
Associations of hospital discharge services with potentially avoidable readmissions within 30 days among older adults after rehabilitation in acute care hospitals in Tokyo, Japan.
邦訳:入院でリハビリテーションを受けた退院患者の退院支援サービス利用と退院後30日以内の予防可能な再入院発生との関連
URL:https://doi.org/10.1016/j.apmr.2019.11.019
筆者 Seigo Mitsutake 1, Tatsuro Ishizaki 1, Rumiko Tsuchiya-Ito 1,2, Kazuaki Uda 1,3, Chie Teramoto 4, Sayuri Shimizu 5, Hideki Ito 6
光武誠吾、石崎達郎、土屋瑠見子、宇田和晃、寺本千恵、清水沙友里、井藤英喜
1:東京都健康長寿医療センター研究所、2:ダイヤ高齢社会研究財団、3:東京大学大学院医学系研究科公共健康医学臨床疫学・経済学、4:東京大学大学院医学系研究科地域看護、5:医療経済研究機構、6:東京都健康長寿医療センター
*:責任著者 石崎達郎

(問い合わせ先)
東京都健康長寿医療センター研究所
福祉と生活ケア研究チーム(医療・介護システム研究)
石崎達郎 電話:03-3964-3241(内線4226)

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