<プレスリリース>「メタボ健診に準じた健診は、後期高齢者に適しているか?」

東京都健康長寿医療センター研究所の石崎達郎研究部長、光武誠吾研究員らの研究グループは、後期高齢者約80万人分のレセプト(診療情報明細書)情報と定期健康診査(健診)結果を分析し、健診受診者の高血圧症・糖尿病・脂質異常症の服薬率や、管理目標値にされている血圧、血糖値、LDLコレステロール値の実態を明らかにしました。研究成果は、国際科学雑誌「Preventive Medicine Reports」に掲載されています。

健診受診者27万人のうち、45%がすでに服薬治療中

高齢であるほど生活習慣病患者は増えるので、後期高齢者の健診受診者には既に生活習慣病の治療中である人が少なからず含まれている可能性がありましたが、その実態は明かされてきませんでした。石崎らの分析の結果、後期高齢者健診を受診した約27万人のうち、すでに高血圧症・糖尿病・脂質異常症の服薬治療中だった人は45%、健診を受けていない人の服薬治療割合(37%)を上回っていました。この結果は、服薬治療中の人を対象としない「特定健診(メタボ健診)」に準じた従来の健診では、有意義な保健事業にならないのではないかという課題を提示しています。

90歳以上の高齢者や在宅医療患者にも、厳しい管理目標が

また、高血圧症や糖尿病の診療ガイドラインによると、高齢者では心身機能が衰えている場合、疾患管理の基準となる血圧や血糖値は緩い基準で管理することが推奨されています。しかし、90歳以上の高齢者や在宅医療患者の方が、血圧は収縮期血圧110mmHg未満等に、血糖値はヘモグロビンA1c6.0%未満に、LDLコレステロール値100mg/dl未満等にと、より厳しい数値目標で管理されていました。
さらに90歳以上で、糖尿病薬服薬中の約3割が、へモグロビンA1c6.0%未満という低い数値で管理されていることも判明。糖尿病患者で生じやすい低血糖発作の発生リスクは高齢になるほど増えると報告されています。今後は、後期高齢者における低血糖発作の実態や予防については、血糖値の管理目標も含めて検討していくことが必要です。

高齢者の特性に合わせた保健事業へ向けて、「フレイル」などの質問項目を追加

厚生労働省は、2020年度から高齢者の特性に合わせた保健事業を提供するため、これまでの後期高齢者の健診(血液検査等)に、日常生活を脅かす「フレイル」などの早期発見を目指した質問項目を加えることを発表しています。今後も、本研究のようにレセプト情報と健診情報を連結したデータを用いて、健診の意義を検討していく必要があります。



【掲載論文について】

「Preventive Medicine Reports」(2020年2月25日掲載)
タイトル Association of pharmacological treatments for hypertension, diabetes, and dyslipidemia with health checkup participation and identification of disease control factors among older adults in Tokyo, Japan.
邦訳:高齢健診受診者の高血圧症、糖尿病、脂質異常症に対する服薬治療状況と疾患の管理状況
URL:https://doi.org/10.1016/j.pmedr.2019.101033
筆者:Seigo Mitsutake 1, Tatsuro Ishizaki 1, Rumiko Tsuchiya-Ito 1,2, Chie Teramoto 3, Sayuri Shimizu 4, Takuya Yamaoka 1, Akihiko Kitamura 1, Hideki Ito 5
光武誠吾、石崎達郎、土屋瑠見子、寺本千恵、清水沙友里、山岡巧弥、北村明彦、井藤英喜
1:東京都健康長寿医療センター研究所、2:ダイヤ高齢社会研究財団、3:東京大学大学院医学系研究科、4:医療経済研究機構、5:東京都健康長寿医療センター
*:責任著者 石崎達郎

(問い合わせ先)
東京都健康長寿医療センター研究所
福祉と生活ケア研究チーム(医療・介護システム研究)
石崎達郎 電話:03-3964-3241(内線4226)

プレス資料