老年病態研究チームは、内皮細胞の老化に対するラパマイシンの新たな作用について『Cell Communication and Signaling』に発表しました

内容

老年病態研究チーム(心血管老化再生医学テーマ)の佐々木紀彦研究員、板倉陽子研究員、豊田雅士研究副部長は「ラパマイシンは、内皮細胞のストレス誘導性老化の過程において、オートファジーの活性化を介して内皮間葉転換を促進させる」ことを、英国の電子版科学雑誌『Cell Communication and Signaling』に報告しました。

論文情報

Rapamycin promotes endothelial-mesenchymal transition during stress-induced premature senescence through the activation of autophagy

「ラパマイシンは、内皮細胞のストレス誘導性老化の過程において、オートファジーの活性化を介して内皮間葉転換を促進させる」

Sasaki N, Itakura Y, Toyoda M.(佐々木紀彦、板倉陽子、豊田雅士)

発表雑誌

「Cell Communication and Signaling」(2020年3月12日電子版に発表)

https://biosignaling.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12964-020-00533-w

論文概要

近年の老化細胞を標的とした研究から、細胞老化に伴うSASP(senescence-associated secretory phenotype)が血管疾患の発症や進展に関わると考えられていますが、その詳細は不明です。本論文では、老化およびSASP抑制剤としても期待されている免疫抑制剤のラパマイシンの内皮細胞に対する作用について明らかにすることを目的としました。ストレス誘導性の細胞老化誘導時におけるラパマイシンの作用について解析を行い、以下のことが明らかになりました。

  • ヒト冠状動脈内皮細胞(HCAEC)において、過酸化水素によるストレス性細胞老化の誘導時にラパマイシンで処理することで老化関連bガラクトシダーゼ(SA-b-gal)陽性の細胞老化が抑制された。
  • 細胞老化に伴う各種SASP因子の増加が、ラパマイシンにより抑制された。
  • 細胞老化と関連して細胞表面で増加する接着分子のICAM-1や糖脂質のガングリオシドGM1については、ラパマイシン処理によりさらに増加し、血球細胞の接着性が促進された。
  • 細胞老化では扁平・肥大化が見られるのに対し、ラパマイシン処理では紡錘状の形態を示した。こうした形態変化は、内皮間葉転換(EndMT)マーカーの発現の増加と関連することがわかった。
  • EndMTの促進作用にはラパマイシンの下流で活性化するオートファジーが関わっていることが明らかになった。

このように、抗老化作用のあるラパマイシンによる新たな作用として、オートファジーの活性化によりEndMTの誘導が起こることを明らかにしました。今後、オートファジーによるEndMTの誘導機構についての詳細が明らかになれば、血管疾患などの加齢性疾患に対するラパマイシンを用いた新たな予防法や治療法の開発に繋がることが期待されます。