<プレスリリース>「死亡前1年間にかかった医療費と介護費の総額は?85歳以上で死亡した人が最も安かった」

発表内容の概要

東京都健康長寿医療センター研究所の石崎達郎研究部長らの研究グループは、福島県相馬市の65歳以上の医療レセプト・介護レセプトデータを使って、死亡前の医療介護費の総額を分析した結果、死亡前1年間にかかった総額は85歳以上で亡くなった人が最も安かったことを解明し、英文専門誌「Geriatrics & Gerontology International」に掲載されました。

研究目的

わが国では人口の高齢化が医療費増加の原因であると伝えられることが多く、高齢者にかかる医療費問題が大きな政策議論となっています。しかし海外の研究によると、死亡年齢が高くなるほど医療費が増加するというわけではなく、年齢よりも死期が近い期間ほど医療費への影響があると報告されています。
そこで、死亡年齢の高齢化が実際に医療費増加にどう影響しているのかを調べ、生存者と比較して分析を行いました。高齢者は要介護状態になり、医療費とともに介護費もかかるリスクが高いため、医療費と介護費の総額を分析対象としました。

研究成果の概要

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死亡した高齢者(882人)を対象に、年齢階級別(65~74歳、75~84歳、85歳以上)と、要介護状態の程度別(要介護認定なし、要支援1~要介護3、要介護4~5)、さらに時期別(死亡前の1年間を3か月ごとの四半期に区分)に分けて、一人あたりの医療介護費を分析しました。図1に示すように、死亡前1年間にかかった一人あたりの医療介護費の総額(年額)平均は、85歳以上が最も低い金額でした(65~74歳395万円、75~84歳273万円、85歳以上238万円)。要介護状態では、要介護認定なし群が最も低くなっていました(要介護認定なし:244万円、要支援1~要介護3:278万円、要介護4~5:328万円)。

次に、年齢、要介護状態の程度、死亡までの期間、それぞれが四半期ごとの医療介護費の総額にどう影響しているかを分析しました。図2に単純集計結果を示します。統計解析を行った結果、年齢では85歳以上の人が65~74歳より44%安かったのですが、<要支援1~要介護3>の人は要介護認定のない人と比べて1.31倍高く、<要介護4~5>になると1.65倍高額でした。また、死亡に近づくと高額となり、死亡直前の死亡前3か月~死亡当月は、死亡前12~10か月よりも1.83倍高額でした。

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研究の意義と限界

今回の研究で、わが国でも、死亡前1年間の医療介護費は、年齢が高いかどうかではなく、死期に近づくにつれて増加していたことが明らかとなりました。しかし、今回の研究は、死亡した人が死亡前に消費した医療資源を死亡時点から過去に遡って把握した分析であり、医療従事者であっても患者の死期を1年前の時点で正確に予測することは不可能です。したがってこの研究成果から、高齢者の終末期医療・介護サービスの利用を制限すれば、死亡前の医療介護費の増加が抑制できると解釈することはできません。
死亡年齢の高齢化と医療費の増嵩を検討するためには、年齢だけでなく、要介護状態の程度や死亡への接近時期をも考慮して詳細に検討する必要がありますが、その知見はとても限られていました。

【掲載情報】

タイトル
Association of long-term care needs, approaching death, and age with medical and long-term care expenditures in the last year of life: an analysis of insurance claims data
Geriatrics & Gerontology International(2020年1月24日 早期掲載)https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/ggi.13865

著者
Hiroko Mori 1,2, Tatsuro Ishizaki 1 , Ryutaro Takahashi 1,3
森寛子、石崎達郎、高橋龍太郎
1:東京都健康長寿医療センター研究所 福祉と生活ケア研究チーム
2:京都大学医学研究科健康情報学分野
3:多摩平の森の病院
*:責任著者

(問い合わせ先)
東京都健康長寿医療センター研究所
福祉と生活ケア研究チーム(医療・介護システム研究)
石崎達郎 電話:03-3964-3241(内線4226)

プレス資料