<プレスリリース>「高齢者全体の要介護発生と死亡にフレイルが大きく寄与、 集団対策としてのフレイル対策の有効性を示唆」

発表内容の概要

東京都健康長寿医療センター研究所の北村明彦研究部長、新開副所長らの研究グループは、フレイルとその予備群が地域在住の高齢者の要介護発生や死亡に大きく寄与していることを明らかにしました。フレイルを的確に評価して、フレイルやフレイル予備群と判定された方に対して、フレイル状態の改善、及び要介護化の予防のための様々な働きかけを行うことは、高齢者の健康余命の延伸に大いに貢献するものと考えられます。
本研究は、日本公衆衛生雑誌2020年2月号(第67巻・第2号)
(URL:https://www.jsph.jp/docs/magazine/2020/02/67-2_134.pdf)に掲載されました。

研究の背景

わが国では、健康寿命の延伸を目標として、「高齢者の保健事業と介護予防の一体的実施」が施行されつつあります。その一環として、2020年度より、後期高齢者に対する健診の質問票にフレイルを評価する項目が導入されます。しかしながら、健診でフレイルを評価し、その改善や予防を図ることによって、その後の要介護や死亡がどの程度抑制できるのかについては明らかになっていません。

研究成果の概要

本研究では、群馬県の一地域の高齢健診受診者約1,200人の平均8年(最大13年)の追跡研究により、フレイル及び他の危険因子が要介護発生、死亡のリスク上昇に及ぼす影響を検討しました。フレイルは、①意図しない体重減少(半年以内に2~3kg)、②「自分が活気にあふれている」の質問に「いいえ」と回答、③外出が1日平均1回未満、④歩行速度が毎秒1m未満、⑤握力が男性26kg未満、女性18kg未満の5項目のうち、3項目以上該当をフレイル、1~2項目該当をフレイル予備群と判定しました。

その結果、図に示すように、要介護発生のハザード比(その因子を有する群が有しない群に比べて、要介護が何倍発生しやすいかを表す指標)は、フレイル、フレイル予備群、認知機能低下、脳卒中既往が1.4~2.1倍と有意に高値を示しました。一方、要介護発生の集団寄与危険度割合(その因子を取り除くことにより集団全体の要介護発生が何割減少するのかを表す指標)は、フレイル予備群が17%、フレイルが12%と他の因子に比し断然高率でした。死亡についても同様であり、フレイル予備群が24%、フレイルが13%の寄与危険度割合を示しました。すなわち、本研究より、集団対策として、フレイル及びフレイル予備群に陥ることを防ぐことにより、約8年後までの要介護発生を約3割、死亡を約4割、それぞれ減らすことが可能となることが示唆されました。さらに、年齢別に解析した結果からは、前期高齢期の方が後期高齢期よりも要介護発生や死亡に対するフレイルの影響度が大きいことが明らかになりました(図略)。

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研究の意義

本研究成果の意義としては、高齢者健診の受診者を対象とした場合、自立喪失(要介護や死亡)に最も寄与していた要因はフレイル及びフレイル予備群であることを示した点にあります。フレイルを予防、改善させるための運動、栄養、社会参加等の介入研究の知見が積み重なりつつある現状をふまえると、フレイルを健診にて評価して、フレイルやフレイル予備群と判定された方に対して、フレイル状態の改善、及び要介護化の予防のための様々な働きかけを行うことは、高齢者の健康余命延伸に多いに貢献するものと考えられます。また、そうした取り組みは前期高齢期から開始した方がより効果的であると思われます。

後期高齢者健診でのフレイル評価が新年度から開始されるのを契機に、わが国の高齢者の保健・介護予防対策が一層発展していくことを期待いたします。

【掲載論文

北村明彦、清野諭、谷口優、横山友里、天野秀紀、西真理子、野藤悠、成田美紀、池内朋子、阿部巧、藤原佳典、新開省二.高齢者の自立喪失に及ぼす生活習慣病、機能的健康の関連因子の影響:草津町研究.日本公衛誌.2020:67(2):134-145

(問い合わせ先)
東京都健康長寿医療センター研究所
社会参加と地域保健研究チーム 研究部長 北村明彦
電話 03-3964-3241 内線4250  kitamura@tmig.or.jp

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