東京都健康長寿医療センター研究所の北村明彦研究部長らの研究グループは、7種類の日常的な行動(農作業、買い物、運動、食事、知的活動、社会参加、喫煙)に着目し、喫煙以外の各行動はフレイル予防や自立喪失(介護が必要な状態および死亡)の予防に寄与することを明らかにしました。喫煙はフレイルではない高齢者の自立喪失を促進していました。フレイルの特徴の一つである可逆性(フレイルな状態から非フレイルな状態に戻ること)にも着目した解析をおこない、フレイルな状態であっても農作業、知的活動、社会参加をしている者は、非フレイルな状態へと改善しやすいことを明らかにしました。
本研究は、Maturitasに掲載されました(https://www.maturitas.org/article/S0378-5122(20)30237-1/abstract)。
フレイルとは自立喪失(介護が必要な状態や死亡)のリスクが高まっている状態であり、健常な状態と自立喪失した状態の間に位置していると考えられています。これまで、短期間(3~6ヶ月程度)の運動や栄養改善によってフレイルから非フレイルへ改善するという介入研究の成績は数多く報告されています。一方、日常生活における行動に着目した研究は少なく、どのような日常行動が長期的にみてフレイル予防につながるのか、フレイルから非フレイルな状態への改善に寄与するのか、についての知見は不十分でした。
本研究では、兵庫県の一農村地域に在住する65歳以上の高齢男女3769名を5年間追跡しました。フレイルの評価には15項目の質問からなる「介護予防チェックリスト」を用いました。研究参加者のうち、初回調査時に非フレイルな状態であった者は70% (2633名)、フレイルな状態であった者は30% (1136名)でした。図1は5年後の追跡調査時の状態を示しており、非フレイルからフレイルな状態に悪化した者が17%、フレイルな状態から非フレイルに改善した者が15%確認されました。
注目すべき結果として、初回調査時にフレイルであった高齢者において、農作業をしていた者、本や雑誌を読むといった知的活動を日常的に行っていた者、地域活動やサロンなどへの参加(社会参加)を行っていた者は、それぞれ行っていなかった者に比べて、フレイルから非フレイルな状態に改善しやすい傾向にあることが示されました(図2)。さらに、農作業、知的活動、社会参加は非フレイルな状態の高齢者がフレイルな状態へと悪化するのを予防する(フレイル予防になる)ことも示されました。
本研究成果の意義としては、日常の生活場面での応用が可能な知見を示した点にあります。すなわち、フレイルになる前から予防的な行動を取ることはもちろんのこと、フレイルになっても外出し他者と交流する、頭を使うといった行動を継続していくことの重要性が明らかとなりました。農作業の効用がみられた点については、今回の対象地域の主要な産業が農業であることが関係していると考えられました。フレイルになると、健康的な日常行動を取るのを止めてしまう、あるいは困難になることがあります。しかし、本研究結果により、フレイルになっても健康的な日常行動をできるだけ維持すること、そしてそのような行動を継続するための支援と環境整備を進めることにより、フレイルの改善が期待できることが示唆されました。
Abe T, Nofuji Y, Seino S, Murayama H, Yoshida Y, Tanigaki T, Yokoyama Y, Narita M, Nishi M, Kitamura A, Shinkai S. Healthy lifestyle behaviors and transitions in frailty status among independent community-dwelling older adults: The Yabu cohort study. Maturitas. 2020:136:54-59
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