<プレスリリース>金銭目的のみの就労は高齢期の就労による健康効果を減弱させる ―「いきがい」をもてる就労が重要―

発表内容の概要

東京都健康長寿医療センター研究所の藤原佳典研究部長の研究グループは、65歳以上の高齢就労者において、金銭のみを就労の目的としている者では、生きがいを目的としている者に比べて2年後の主観的健康感の悪化リスクが1.42倍、生活機能悪化リスクが1.55倍高いことを明らかにしました。この研究成果は、国際雑誌「Geriatrics & Gerontology International」オンライン版(7月3日付、筆頭著者:根本裕太)に掲載されました。

研究成果の概要

これまでの研究から、高齢期における就労が健康維持に寄与することが明らかにされております(Fujiwara et al. Engagement in Paid Work as a Protective Predictor of Basic Activities of Daily Living Disability in Japanese Urban and Rural Community-Dwelling Elderly Residents: An 8-year Prospective Study. 2016)。しかし、高齢期就労と健康との関連において、就労の動機がどのように影響するかについては明らかにされておりませんでした。

本研究では、2013~2015年に東京都大田区で実施した郵送調査のデータを用いて、解析を行いました。本研究の対象者は東京都大田区に居住する65歳以上の高齢者7,608名であり、2013年と2015年の両調査に回答し、2013年時点で就労していた1,069名を解析の対象としました。就労の動機は、「健康のため」、「生きがいを得たい」、「社会貢献・社会とのつながり」を生きがい目的、「生活のための収入が欲しい」、「借金の返済のため」、「小遣い程度の収入が欲しい」を金銭目的と定義し、3群(生きがい目的群、生きがい+金銭目的群、金銭目的群)に分類しました。そして各群における2年後の主観的健康感、精神的健康度、生活機能悪化リスクを比較しました。

解析の結果、金銭のみを就労の目的としている者では、生きがいを目的としている者に比べて2年後の主観的健康感の悪化リスクが1.42倍、生活機能悪化リスクが1.55倍高いことが示されました。しかし、生きがい目的で就労している者と生きがいと金銭の両方を目的としている者との間には健康悪化リスクに差は見られませんでした。

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研究の意義

本研究の結果から、就労の動機が金銭のみである者においては就労による健康効果が得られていない可能性が示されました。金銭のみを就労目的としている者では、より多くの収入を得るために、長時間・危険・重労働などによる身体的および精神的負担が大きいため、健康悪化リスクが高いと考えられます。一方、生きがいと金銭の両方を目的としている者では、必ずしも金銭が上位の就労動機ではないため、就労によるストレスは小さく、健康悪化リスクが生きがい目的の高齢就労者と同等であることが示唆されました。以上から、高齢期就労による健康効果を高めるには、いきがいを実感できる(例、周囲に、直接感謝されるなど、人や社会の役に立っていることが実感しやすいような)業務に携わることが重要です。また、金銭目的のみで働く高齢者に対しては、就労支援だけではなく、生活全般や健康についての相談や貧困対策などのセーフティネットが必要であるといえます。

掲載論文

国際科学雑誌「Geriatrics & Gerontology International」(オンライン版掲載 7月3日付)

Nemoto Y et al. Working for only financial reasons attenuates the health effects of working beyond retirement age: A 2‐year longitudinal study

(金銭目的のみの就労は高齢期の就労による健康効果を減弱させる)

プレス資料

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東京都健康長寿医療センター研究所

社会参加と地域保健研究チーム 根本裕太 藤原佳典

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