東京都健康長寿医療センター研究所の大渕修一研究部長の研究グループは、地域在住高齢者への郵送調査の未応答者に対して、簡易調査、はがき調査、訪問調査といった追跡調査を段階的に実施し、調査からの脱落の段階とその関連要因を検討しました。その結果、日常生活動作能力の低下や社会活動への不参加が脱落と関連することが明らかとなりました。こうした調査からの脱落は、社会から徐々に離脱する高齢者の実態と共通する性質があると考えられます。この研究成果は、国際雑誌「PLOS ONE」オンライン版(8月3日付、筆頭著者:河合 恒)に掲載されました。
これまでやっていた活動をやめた、外出が減り閉じこもりがちになった、などの高齢期の「社会からの離脱」は突然起こるわけではなく段階があるのではないか。私たちはそのように仮説し、社会からの段階的な離脱を反映する指標として「調査からの脱落の段階」に関する要因を調査しました。
東京都板橋区の65~85歳の地域在住高齢者への郵送調査の回答者3,696名に対して、2年後に追跡郵送調査を行い2,361名が回答しました(脱落レベル0)。その未応答者には項目数を24から10に減らした簡易調査を実施し462名が回答しました(脱落レベル1)。その未応答者には5項目のはがき調査を実施し234名が回答しました(脱落レベル2)。さらにその未応答者には訪問調査を実施し84名が応じました(脱落レベル3)。どの調査にも応答しなかったのは101名でした(脱落レベル4)。(図1)
脱落レベルが上がるほど、初回郵送調査時の日常生活動作能力、社会活動参加率、主観的健康感、主観的経済状況が低く、社会的孤立者が多い傾向がありました。脱落レベルのもっとも低いレベル0の人と比較すると、レベル1、2の人は日常生活動作能力が低く趣味活動へ不参加であり、レベル3の人はスポーツ活動へ不参加であることがわかりました。さらに、脱落レベルのもっとも高いレベル4の人は、社会的に孤立しており、町内会活動へ不参加であることがわかりました。
これまでに、調査未応答者に対して本研究のような丁寧な追跡を行った研究は国際的にも例がありません。本研究は高齢期における社会からの離脱の段階とその要因を初めて浮き彫りにしました。また、高齢者が調査に回答するために必要なアプローチが、脱落のレベルによって異なることも示しました。
日常生活動作能力低下や社会活動への不参加が、より丁寧なアプローチを行わないと離脱する状態へつながります。周囲との交流の減少や町内会活動への不参加は、将来的な社会からの離脱の危険信号です。
Kawai H, Ejiri M, Tsuruta H, Masui Y, Watanabe Y, Hirano H, Fujiwara Y, Ihara K, Tanaka M, Obuchi S. Factors associated with follow-up difficulty in longitudinal studies involving community-dwelling older adults. PLOS ONE. 0237166 August 3, 2020.
(問い合わせ先) 東京都健康長寿医療センター 福祉と生活ケア研究チーム 研究員 河合 恒 電話 03-3964-3241 内線4243 Email: hkawai@tmig.or.jp |