<プレスリリース>コロナ禍でも体を動かすような活発な生活を!高齢期の身体活動量の低下は身体能力の過大評価につながる

発表内容の概要

 東京都健康長寿医療センター研究所の桜井良太研究員と東京都立大学の今中國泰名誉教授の研究グループは、加齢とともに増えてくる身体能力の過大評価傾向が外出頻度の低下といった身体活動量の低下に関連していることを明らかにしました。この研究成果は、国際雑誌「Journals of Gerontology: Psychological Sciences」に掲載されました。

研究成果の概要

【背景】

 我々の生活を安全かつ円滑に送るためには、自己の能力を正確に把握し、その評価に基づいて行動することが必要となります。例えば、歩行中に障害物を跨ぎ越そうとするとき、もし自己の跨ぎ越し能力を過大評価していれば、自身が思っていたよりも足が上がらず、障害物につまずきやすくなり、転倒に至る可能性も高くなります。実際に、これまでの研究から高齢者の跨ぎ越し能力をはじめとした身体能力の過大評価が高齢者の転倒に関連していることが分かってきました。したがって、身体能力の過大評価につながる要因を明らかにすることにより、高齢者の安全な生活を脅かす生活上の問題を早期に把握することが可能となると考えられます。

【方法】

 そこで我々の研究チームでは、116名の健康上問題のない高齢者を3年間追跡調査し、どのように高齢者の身体能力過大評価が生じ、それがどのような生活要因によって引き起こされる可能性があるかを検討しました。自己能力評価課題には、跨ぎ越し動作をモデルとしたテストを用いました(跨ぎ越し判断テスト:図1)。このテストでは、実験参加者の7m前方に跨ぎ越し用のバーを水平に設置し、その高さを上下に変化させ、参加者がそれを跨ぎ越せると思う最大の高さを跨ぎ越し判断の最大値(予測高)として測定記録しました。その後、実際にその高さのバーを跨ぎ越させ、予測高と実際に足がバーに触れずに跨ぎ越せた最大の高さ(実測高)との差を求め、自己能力評価と実際の能力との乖離(評価エラー)がどの程度であるかを推定しました。

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【結果】

 研究の結果、自身の跨ぎ越し能力を過大評価していた高齢者の割合は、3年間で10.3% から22.4%に増えていました。この過大評価に関連する要因を調べたところ、初回調査時の外出頻度が3年後の評価エラーに関連し、外出頻度が低い者ほど自身の能力を過大評価(または過小評価傾向が縮小)する傾向にあることが明らかになりました。初回調査時の外出頻度別に予測高と実測高の推移を比較すると、低外出頻度者では3年間で実測高が低くなっているにもかかわらず、予測高が高くなり、結果として過大評価が生じていることが分かりました(図2)。

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研究成果の意義

 本研究の結果から、加齢とともに身体能力を過大評価する高齢者が増え、この過大評価傾向には外出といった体を動かす機会の低下が関与していることが分かりました。この結果は、定期的に体を動かし、自身の体の状態を認識することが、自己能力認識を正確に保つために重要であるということを示しています。
 コロナ禍では閉じこもりがちな生活になりやすいですが、身体能力の過大評価が転倒につながる可能性があることを考えると、事故予防の観点からも体を動かす機会を増やし、活発な生活に努めることが大切であるといえます。

掲載論文  

国際科学雑誌「Journals of Gerontology: Psychological Sciences」
(オンライン版掲載 現地時間2020年12月7日付)
Changes in Self-estimated Step-Over Ability among Older Adults: A 3-Year Follow-up Study
(高齢者の跨ぎ越し能力の変化:3年間の追跡研究)

(問い合わせ先)
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東京都健康長寿医療センター研究所
社会参加と地域保健研究チーム 桜井良太
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