<プレスリリース>「膵臓がん細胞の立体培養から、抗がん剤の有効性の違いを発見」

東京都健康長寿医療センターの南 風花研究生、佐々木紀彦係長級研究員と石渡俊行研究部長らは、膵臓がん細胞株の上皮系または間葉系形質が、立体培養の形態と抗がん剤に対する感受性に関連していることを発見しました。本研究成果は、多様性のある膵臓がんの個別化治療法の開発に役立つことが期待されます。本研究成果は、科学誌「Scientific Reports」誌のオンライン版(3月24日付け)に掲載されました。

研究の背景

膵臓がんは高齢者を中心に急速に増加しており、発見時にはすでに癌が浸潤、転移し手術を受けられない事が多く、5年後に生存できる患者さんは約10%と深刻な状況が続いています。このため、一刻も早い膵臓がんの早期診断法と、新たな治療法の開発が求められています。膵臓がんはさまざまな形態や性質(形質)のがん細胞から構成されており個人差が大きいことから、体の中で膵臓がんがどのように増殖し、どの抗がん剤が有効なのかといった詳細は解明されていませんでした。

研究成果の概要

ヒト膵臓がんの症例では、個人によって遺伝子変異や、各種タンパク質の発現量および形態学的な違いがあることが報告されています。近年、我々は、細胞同士の接着や増殖、移動に関与する上皮系または間葉系の特徴が、平面的に培養する2次元(2D)培養と比較して、立体的に培養する3次元(3D)培養で増強されることを発見しました(2019, Scientific Reports誌)。本研究では、2Dおよび3D培養における8種類のヒト膵臓がん培養細胞株の形態学的および機能的特徴の違いを調べました。ほとんどの膵臓がん細胞は、2D培養で類似した形態を示していました。 一方、3D培養では、上皮系細胞に高発現するE-カドヘリンが多く、間葉系細胞に発現するビメンチンが少ない上皮系の性質の膵臓がん細胞は、平らな被覆細胞で囲まれた小さな丸い球体を形成しました。これとは逆にビメンチンが高くE-カドヘリンが低い間葉系の性質を示す膵臓がん細胞は、がん細胞がブドウの房のように連なった凹凸のある大型の球体を形成し、高い増殖性を示しました。 さらに、現在用いられている抗がん剤の3D培養での効果は、ゲムシタビンは上皮系形質を示す膵臓がん細胞により効果的でしたが、アブラキサンは間葉系形質の膵臓がん細胞に対してより有効でした。

研究の意義と展望

本研究では、膵臓がん細胞がさまざまな異なったレベルの上皮系および間葉系の特徴を持っていることを明らかにしました。 3D培養法は、膵臓がん細胞株の多様性を調べるのに有用であり、膵臓がんの個別化治療法の開発に重要な役割を果たす可能性があります。

(問い合わせ先)

東京都健康長寿医療センター研究所 電話03-3964-1141
老年病理学研究チーム(高齢者がん)研究部長 石渡 俊行
電話  03-3964-1141  内線 4414 
Email: tishiwat@tmig.or.jp

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【発表雑誌】

雑誌名: Scientific Reports
論文公開 URL:https://www.nature.com/articles/s41598-021-86028-1
公開号: 2021年 3月 24日発行号 Web版

論文番号(DOI):https://doi.org/10.1038/s41598-021-86028-1
英文タイトル: Morphofunctional analysis of human pancreatic cancer cell lines in 2- and 3-dimensional cultures
Fuuka Minami, Norihiko Sasaki, Yuuki Shichi, Fujiya Gomi, Masaki Michishita, Kozo Ohkusu-Tsukada, Masashi Toyoda, Kimimasa Takahashi, and Toshiyuki Ishiwata* (co-first author; *corresponding author)

和文タイトル: 2次元および3次元培養によるヒト膵臓がん細胞株の形態機能解析
南 風花、佐々木紀彦、志智優樹、五味不二也、道下正貴、塚田晃三、豊田雅士、高橋公正、石渡俊行*共同筆頭著者、*責任著者)

【共同研究チーム】

地方独立行政法人 東京都健康長寿医療センター研究所 
老年病理学研究チーム 高齢者がん
志智優樹 非常勤研究員、五味不二也 係長級研究員、石渡俊行 研究部長

地方独立行政法人 東京都健康長寿医療センター研究所 
老年病態研究チーム 心血管老化再生医学
佐々木紀彦 係長級研究員、豊田雅士 研究副部長

日本獣医生命科学大学 獣医学科 獣医病理学研究室
南 風花 研究生、道下正貴 准教授、塚田晃三 教授、高橋公正 名誉教授