<プレスリリース>中等度以上認知症の可能性がある入院患者は退院直後の再入院予防策が必要

発表内容の概要

東京都健康長寿医療センター研究所の光武誠吾研究員、石崎達郎研究部長らの研究グループは、東京都健康長寿医療センターを退院した65歳以上約9千名分のレセプト(診療情報明細書)情報を分析し、中等度以上の認知症の可能性がある入院患者は、認知症の可能性がない入院患者に比べると、退院直後に再入院しやすことを明らかにしました。この研究成果は、米国のAlzheimer's Associationが刊行する国際科学雑誌「Alzheimer's & Dementia: Diagnosis, Assessment & Disease Monitoring」に掲載されています。

研究背景と研究目的

高齢な患者にとっては、入退院など療養環境が変わること自体が大きな負担になるため、退院直後の再入院は予防すべきと考えられています。そのため、入院時から退院直後の再入院のリスクが高い患者を特定し、退院直後の再入院が起きないように対策をとることは重要です。

認知症を抱えた患者は療養環境の変化に適応できないこともあるため、認知症のない入院患者に比べると、退院直後の再入院の発生リスクは高いと考えられています。しかし、認知症の重症度と再入院発生リスクとの関連については検討が不十分でした。そこで、本研究では、入院患者を対象に認知症の重症度と退院直後の再入院(退院後90日以内の予防可能な再入院)の発生との関連を検討しました。

研究成果の概要

認知症の重症度評価には、DASC-21(Dementia Assessment Sheet for Community-based Integrated Care System-21 items)を用いました。DASC-21は「認知機能障害」と「生活機能障害」の程度から、『認知症の可能性なし』、『軽度認知症の可能性あり』(時間の見当識・近時記憶(数日の記憶)・問題解決能力・手段的日常生活動作(家事や交通機関の利用などの複雑な日常生活動作)に障害を認める状態)、『中等度認知症の可能性あり』(時間に加えて場所の見当識障害が現れ、遠隔記憶(発病する前に学習した記憶)・判断力・基本的日常生活動作(移動や入浴など基本的な日常生活動作)に部分的な障害を認める状態)、『重度認知症の可能性あり』(時間・場所に加えて人物の見当識障害が現れ、遠隔記憶障害・判断力・基本的日常生活動作に全般的な障害を認める状態)を判定します。

8,897名の高齢入院患者(平均年齢79.8歳)を分析対象者としたところ、2,880名(32.4%)で認知症の可能性ありと判定され、重症度別には軽度認知症の可能性あり:850名(9.6%)、中等度認知症の可能性あり:1,815名(20.4%)、重度認知症の可能性あり:215名(2.4%)でした。退院直後に再入院した患者は、分析対象者のうち238名(2.7%)でした。認知症の重症度別の再入院患者数は、認知症の可能性がない患者で100名(1.7%)、軽度認知症の可能性がある患者で19名(2.2%)、中等度認知症の可能性がある患者で99名(5.5%)、重度認知症の可能性がある患者で20名(9.3%)でした。さらに、性別や年齢などの要因の影響を除いても、退院直後の再入院の発生リスクは、認知症の可能性がない患者よりも、中等度認知症の可能性がある患者で1.4倍、重度認知症の可能性がある患者で2.2倍高いことが認められました。

研究の意義

本研究の意義は、中等度以上の認知症の可能性がある患者が入院した場合、入院中から退院直後の再入院予防策を検討することの重要性を示せたことです。退院直後の再入院を予防する取り組みの一つに、退院後の生活を見据えた退院計画の作成や地域ケアとの連携、退院後のフォローアップなどを組み合わせた移行期ケアプログラムがあります。中等度以上認知症の可能性がある患者は、入院時に移行期ケアプログラムを優先的に提供する必要性が高い方々であると考えられます。

掲載論文

「Alzheimer's & Dementia: Diagnosis, Assessment & Disease Monitoring」(2021年4月1日掲載)

Association of Cognitive Impairment Severity with Potentially Avoidable Readmissions: A Retrospective Cohort Study of 8,897 Older Patients

邦訳:認知症の重症度と退院直後の予防可能な再入院発生との関連

URL:http://doi.org/10.1002/dad2.12147

筆者Mitsutake S 1, Ishizaki T 1, Tsuchiya-Ito R 1,2, Furuta K 3, Hatakeyama A 4, Sugiyama M 5, Toba K 6, Ito H 6.

光武誠吾 1、石崎達郎 1、土屋瑠見子 1,2、古田光 3、畠山啓 4、杉山美香 5、鳥羽研二 6、井藤英喜 6

1:東京都健康長寿医療センター研究所 福祉と生活ケア研究チーム、2:医療経済研究機構、3:東京都健康長寿医療センター精神科、4:東京都健康長寿医療センター認知症支援推進センター、5:東京都健康長寿医療センター研究所 自立促進と精神保健研究チーム、6:東京都健康長寿センター

責任著者 石崎達郎

※認知症アセスメントシート(DASC-21)についての当研究所ホームページ関連リンク:

https://www.tmghig.jp/research/topics/201703/

プレス資料

(問い合わせ先)

東京都健康長寿医療センター研究所

福祉と生活ケア研究チーム(医療・介護システム研究)

石崎達郎 電話:03-3964-3241(内線4226)