東京都健康長寿医療センター糖尿病・代謝・内分泌内科の荒木厚(副院長)、大村卓也(研究所研究員)らの研究グループは、「高齢者糖尿病の血糖管理目標(HbA1c値)」のカテゴリー分類と死亡リスクの関連を、わが国の6年間の縦断研究であるJ-EDIT研究(代表:井藤英喜・名誉理事長)のデータで解析しました。研究成果は日本老年医学会の英文誌であるGeriatrics & Gerontology Internationalに2021年4月22日掲載されました。
日本糖尿病学会と日本老年医学会の合同委員会は「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c 値)」を公表し、健康状態、年齢、低血糖が危惧される薬剤の有無、併存疾患で患者を3つのカテゴリーに分類し設定していますが、分類法に関して我が国の縦断研究に基づくエビデンスはありませんでした。そこで、高齢糖尿病患者の縦断調査で、認知機能、手段的ADL、基本的ADL、併存疾患による種々のカテゴリー分類と死亡リスクとの関連を検討しました(図1)。
J-EDIT研究において6年間追跡した高齢糖尿病患者843人を対象に解析を行いました(年齢71.9±4.7歳,男384人,女459人)。認知機能はベースラインのMMSE(カットオフ値27/26-22/21)、手段的ADLは老研式活動能力指標(カットオフ値12/11)、基本的ADLはBarthel Index(カットオフ値19/18)の各質問票を用いて評価し、カテゴリーⅠ~Ⅲに分類しました(モデル1)。またモデル1の分類に加えて、網膜症、腎症、神経障害、虚血心性疾患、脳血管障害、悪性疾患、肝疾患、うつの8個の併存疾患の中から4個以上を有する場合にはカテゴリーⅢとする分類でも同様に解析を行いました(モデル2)。さらに因子分析により老研式活動能力指標とBarthel Indexから抽出した8項目(買い物、食事の支度、預金管理、新聞を読む、友人の訪問、食事、トイレ使用、歩行)からなる「生活機能質問票8」の点数で3つのカテゴリーに分類し、死亡との関連をみました(モデル3)。
6年間に64人の全死亡が認められ、カテゴリーⅠに対する、カテゴリーⅡのハザード比は1.8(95% CI: 1.1-3.1)、Ⅲは3.1(95% CI: 1.1-8.3)でした(モデル1)。併存疾患数を考慮したモデル2でも、カテゴリーが進むにつれてハザード比が上昇しました。「生活機能質問票8」を用いたモデル3でも同様の結果を得ました。層別解析ではSU薬・インスリンの低血糖をきたす可能性のある薬剤の使用群で特に、カテゴリーが進むほど死亡リスクが上昇しました。
これらの結果は、認知機能やADLで評価した機能のカテゴリー分類が進むと、年齢、血糖、血圧、脂質のコントロール状態、腎機能、併存疾患数などを考慮しても、死亡のリスクが段階的に増加し、余命が少なくなることを意味しています。これは現在の「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)」のカテゴリー分類の考え方を支持するデータです。
患者さんの生活機能(認知機能やADL)、年齢、低血糖が危惧される薬剤の有、併存疾患を踏まえることが、個々の患者さんに最適な血糖コントロールを行ううえで極めて重要であることを再認識させてくれます。高齢糖尿病患者の治療では、血糖などの管理を行うこと以上に、「生活機能を維持することが大切である」とも言えます。
図1. カテゴリー分類と死亡リスク
カテゴリー分類と死亡との関連はCox回帰分析を用いて解析し、ハザード比(HR)と95%信頼区間(95% CI)を算出した。共変量は年齢、性別、BMI値、収縮期血圧値、HbA1c値、総コレステロール値、eGFR値、重症低血糖頻度を用いた(モデル2)。 |
Functional categories based on cognition and activities of daily living predict all-cause mortality in older adults with diabetes mellitus: the Japanese Elderly Diabetes Intervention Trial
http://doi.org/10.1111/ggi.14171
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副院長・内科統括部長 荒木 厚 aaraki@tmghig.jp
研究員・医員 大村 卓也 takuya_omura@tmghig.jp