東京都健康長寿医療センターの石神昭人研究部長、佐藤綾美研究員、滝野有花研究員、土志田裕太連携大学院生らは東京都健康長寿医療センター腎臓内科の板橋美津世専門部長、武井卓部長、湯村和子医師、埼玉セントラル病院の丸山直記院長らと共同で、高齢の慢性腎臓病(CKD)患者は、血中ビタミンC濃度が低いこと、そして血液透析によりビタミンCが減少することを明らかにしました。また、血液透析により、血中の酸化型ビタミンC濃度の割合が高くなることも明らかにしました。これらの研究成果は、慢性腎臓病を患う高齢者の栄養改善や治療にも大きく貢献するものと期待されます。本研究成果は、2021年9月28日にLifeの電子版に掲載されました。
近年、世界中で高齢の透析患者が増加しており、社会問題になっています。日本では、2012年末時点で透析患者の65.5%が65歳以上の高齢者です。以前より透析患者は、低い血中ビタミンC濃度が報告されていました。しかし、日本の透析患者も血中ビタミンC濃度が低いのかは、よくわかっていませんでした。そこで、本研究では、慢性腎臓病を患う日本の高齢透析患者の血中ビタミンC濃度は低いのか、また透析の前後で血中ビタミンC濃度は変動するのか、などを明らかにすることを研究目的としました。同時に、血中の酸化型ビタミンC濃度の割合についても調べました。
高齢の透析患者(CKDステージG5D、平均年齢79歳)は、透析を受けていない慢性腎臓病患者(CKDステージG3-G5、平均年齢84歳)に比べて血中ビタミンC濃度が低いことがわかりました。また、血中ビタミンC濃度は、1回の透析により40%も減少しました。さらに、透析により血中の酸化型ビタミンC濃度の割合は増加しました。
本研究により、日本での慢性腎臓病を患う高齢透析患者は、血中ビタミンC濃度が低く、1回の透析により約40%も減少することがわかりました。血中ビタミンC濃度が低い原因は、カリウム摂取量の厳格な制限により、新鮮な果物や野菜からビタミンCが摂取できていない可能性が考えられます。この研究成果は,高齢透析患者の栄養改善や治療に大きく貢献するものと期待されます。
【掲載誌】オンライン科学雑誌「Life」(電子版)(2021年9月28日)
https://www.mdpi.com/2075-1729/11/10/1023
【掲載論文の英文表題と著書およびその和訳】
Reduced Plasma Ascorbate and Increased Proportion of Dehydroascorbic Acid Levels in Patients Undergoing Hemodialysis
Yuta Doshida, Mitsuyo Itabashi, Takashi Take, Yuka Takino, Ayami Sato, Wako Yumura, Naoki Maruyama, and Akihito Ishigami * (*corresponding author)
血液透析は、透析患者の血漿アスコルビン酸濃度を低下させ、デヒドロアスコルビン酸の割合を高める
土志田裕太,板橋美津世,武井卓,滝野有花,佐藤綾美,湯村和子,丸山直記,石神昭人* (*責任著者)
【掲載論文の要旨】
【背景と目的】世界中で透析患者の低い血漿アスコルビン酸濃度が報告されている。多くの末期腎臓病患者は、高カリウム血症を防ぐために、食事、特にカリウム豊富な果物や野菜を制限せざるを得ない。本研究では、日本人の透析患者も同様に血漿アスコルビン酸濃度が低いのか、そして透析前後に血漿アスコルビン酸濃度が変動するのかを明らかにする。また、血漿アスコルビン酸濃度と因果関係のある臨床検査項目の有無も明らかにする。
【方法】27人の慢性腎臓病(CKD)ステージG3-G5患者(平均年齢84歳)の血漿アスコルビン酸濃度、および19人のCKDステージG5D透析患者(平均年齢79歳)の透析前後での血漿アスコルビン酸濃度を高速液体クロマトグラフィーと電気化学検出を用いて測定した。
【結果】透析患者の透析前血漿アスコルビン酸濃度(12.0±1.4 µM)は、CKDステージG3-G5患者(27.1±2.7 µM)の血漿アスコルビン酸濃度よりも有意に低かった(56%)(図を参照)。そして、透析後の血漿アスコルビン酸濃度は、透析前に比べて40%低下した。さらに、透析前のアスコルビン酸濃度は、血漿カリウム濃度と有意に相関した。
【考察】このように、日本人の透析患者は、CKDステージG3-G5患者よりも血漿アスコルビン酸濃度が低く、透析によりさらに低下することがわかった。透析患者は、アスコルビン酸欠乏症である壊血病の発症を防ぐためにもアスコルビン酸を十分に摂取する必要がある。
【共同研究チーム】
地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター研究所 老化制御研究チーム 分子老化制御
石神昭人 研究部長,佐藤綾美 研究員,滝野有花 研究員,土志田裕太 連携大学院生
地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター 腎臓内科
板橋美津世 専門部長,武井卓 部長,湯村和子 医師
埼玉セントラル病院 丸山直記 院長
図の説明
健常者(n=28)、慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者(n=39)、慢性腎臓病(CKD)ステージG3-G5患者(n=27)、血液透析患者(n=19)の血漿アスコルビン酸濃度(黄色)とデヒドロアスコルビン酸濃度(ピンク)。健常者の血漿ビタミンC濃度は40~60μM(ブルーゾーン)であり、11μM(ピンクゾーン)以下になると壊血病のリスクが高まる。値は、平均±標準偏差を示す。
(問い合わせ先) 東京都健康長寿医療センター研究所 老化制御研究チーム 分子老化制御 研究部長 石神昭人 電話 03-3964-3241内線4305 Email: ishigami@tmig.or.jp |