「臓器としての機能を維持し続けるヒト心臓構成細胞の糖鎖の特徴は細胞が老化しても保持されている」について発表

内容

 オランダの科学雑誌「Biogerontology」に、老年病態研究チーム(心血管老化再生医学テーマ)の板倉陽子研究員、豊田雅士研究副部長らは「臓器としての機能を維持し続けるヒト心臓構成細胞の糖鎖の特徴は細胞が老化しても保持されている」について発表しました。

論文情報

Glycan characteristics of human heart constituent cells maintaining organ function: relatively stable glycan profiles in cellular senescence.

「臓器としての機能を維持し続けるヒト心臓構成細胞の糖鎖の特徴は細胞が老化しても保持されている」

発表者

老年病態研究チーム
Itakura Y, Sasaki N, Toyoda M.
(板倉陽子、佐々木紀彦、豊田雅士)

発表雑誌

「Biogerontology」(2021年10月12日電子版、22号 (2021.12月発行) 623-637ページに掲載)
https://doi.org/10.1007/s10522-021-09940-z

論文概要

 本論文は、生涯働き続ける心臓がその機能をどう維持しているかを把握するため、心臓を構成する主要な細胞である心筋細胞、心臓線維芽細胞ならびに血管内皮細胞(冠状動脈、微小血管)の老化に伴う変化を、細胞の状態を鋭敏に反映する細胞膜上の糖鎖を指標として調べました。測定はレクチンマイクロアレイ法*による網羅的な手法で行い、ヒトの初代培養細胞株を用い、培養開始間もないもない時と継代して細胞老化した時で比較解析しました。
 その結果、以下のことが明らかとなりました。
① 血管内皮細胞ではフコース*2、心筋細胞ではマンノース*2の割合が他の細胞より比較的多く、ともにシアル酸*2が多く存在していた(図1)。
② 線維芽細胞では特徴的なO結合型糖鎖*3を有するなど各細胞とは異なる糖鎖組成を有することを示した(図1)。
③ 老化した細胞では細胞種における顕著な差はないものの、老化に伴いわずかに変化する糖鎖が存在することを示した(図2)。

 これらのことは、皮膚などの外的な影響を受けやすい組織では細胞老化に伴い糖鎖が顕著に変化することに対して、心臓を構成する細胞の老化に伴う糖鎖変化は極めて小さく、臓器の機能維持を反映しているものと推測されました。組織は、多くの細胞が相互作用しながら機能を発揮しています。心臓を主に構成する細胞の特徴とその変化をモニタリングできれば、それぞれの細胞がどのように機能を維持しているかを探ることが可能になると考えられます。
 今後、糖鎖が組織の構築に与える影響、およびその機能的な意義を明らかにすることで、組織変化に伴う心臓内変化を捉えることの実現による早期の診断につながり、新たな心疾患の予防や治療への応用が期待されます。

*1 レクチンマイクロアレイ法:糖鎖を認識して結合するタンパク質(レクチン)を複数種固定したスライドガラス上で、蛍光標識した試料(ここでは細胞由来の糖タンパク質)を反応させ、シグナルとして検出する手法。
*2 フコース、マンノース、シアル酸:糖鎖を構成する単糖の一種。細胞の多くが様々に連なった糖鎖を付加したタンパク質や脂質を有している。
*3 O結合型糖鎖:特定のアミノ酸(セリン/スレオニン)に結合した糖鎖構造の一種

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図1:レクチンマイクロアレイ法により検出した各細胞(心筋、繊維芽、血管内皮)に特徴的な糖鎖を認識するレクチンにより染色した。

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図2:レクチンマイクロアレイ解析による老化細胞の糖鎖(フコース)の変化。いずれの細胞においてもその変化は顕著なものではなかった。