新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)による死亡に関連する要因は様々議論されています。高齢、喫煙、肥満などの個人の要因だけでなく、居住する地域の要因も大きく関与するといわれており、その1つが、地域のつながり、「ソーシャルキャピタル」です。研究チームは、15~79歳までの全国サンプルによるインターネット調査のデータを用い、都道府県レベルのソーシャルキャピタルと人口10万人あたりのコロナ死亡率の関連を調べました。この成果は、国際誌International Journal of Environmental Research and Public Healthに掲載されました。
都道府県レベルのソーシャルキャピタルと人口10万人あたりのコロナ死亡率の関連を明らかにすること。
2020年8~9月に実施したインターネット調査(15~79歳の全国サンプル25,484名)のデータを使用しました。都道府県毎のコロナ死亡数は、厚生労働省のオープンサイト(https://covid19.mhlw.go.jp/)から入手し、2020年10月(調査後)~2021年6月の9か月間のデータを使用しました。ソーシャルキャピタルは、「①地域の人々は、一般的に信頼できる(社会信頼)」「②地域の人々は、多くの場合、他の人の役に立とうとする(互酬性の規範)」「③政府は信頼できる(政府信頼)」「④近所付き合いの頻度(近隣ネットワーク)」「⑤ボランティア、スポーツ、趣味のグループへの参加(社会参加)」の5項目で測定しました。①~③は"認知的ソーシャルキャピタル"、④と⑤は"構造的ソーシャルキャピタル"と呼ばれます。①~③は「そう思う」、④は「週1回以上」、⑤は「いずれかに参加」と回答した人の割合を都道府県毎に算出しました。なおインターネット調査特有の回答者の偏りを取り除くため、回答に重み付けをしています。
都道府県毎の人口密度、所得レベル、人口あたりの病床数の影響を統計学的に取り除いても、「②互酬性の規範」「③政府信頼」が高い都道府県ほど、人口10万人あたりのコロナ死亡率が低いという結果でした。互酬性の規範が豊かな都道府県では、地域内での相互の助け合いの土壌があることでストレスフルなコロナ禍での生活に適応できた可能性が、また、政府信頼が高い都道府県では、国や政府が出すメッセージへの遵守度が高かった可能性があります。こうした都道府県では、外出自粛の徹底や感染予防行動が促進され、結果として死亡率が低かったと考えられます。ただし、政府信頼は、2021年4~6月の期間のコロナ死亡率には関連していませんでした。これには、この時期の内閣支持率の下落等の要因が関係していると考察できます。
コロナによる感染や死亡を予防するためには、個人に行動変容を働きかけるだけでなく、地域社会がどうあるべきかも問われます。この成果は、コロナ禍においても、国や自治体が行う地域づくりを引き続き継続していくことの重要性を示しています。
Murayama H, Nakamoto I, Tabuchi T. Social Capital and COVID-19 Deaths: An Ecological Analysis in Japan. International Journal of Environmental Research and Public Health 2021; 18(20): 10982.
(問い合わせ先) |