東京都健康長寿医療センター研究所の藤原佳典研究部長の研究グループは、高齢者が介護助手として高齢者介護施設で周辺業務を担うことにより、自身の健康維持のみならず、介護スタッフの身体的・精神的負担感の軽減につながる可能性を示しました。
この研究成果は、国際雑誌「BMC Health Services Research」に掲載されました。
三重県では、平成27年度より県内の介護老人保健施設で高齢者を介護助手として活用する取り組みである、「元気高齢者による介護助手モデル事業」が展開されています。このモデル事業は、地域の元気な高齢者が介護助手(以後、高齢介護助手)として、介護職員が行ってきた周辺業務(部屋の掃除や食事の片付け、ベッドメイク、シーツ交換、園芸などの趣味活動の手伝い、話し相手など)を担うことで、元気な高齢者に介護業界の支え手となってもらうことを目的としています。全国老人保健施設協会の調査では、高齢介護助手を導入した介護老人保健施設において、導入後の離職率低下が認められており、介護職員の負担を軽減している可能性が示唆されてきましたが、系統立った検討は行われておりませんでした。
そこで本研究では、令和元年度に厚生労働省で行われた「介護施設等における生産性向上に資するパイロット事業」のデータを用いて、高齢介護助手の就労と介護スタッフの身体的・精神的負担感の関連、および、その就労に伴う高齢介護助手自身への影響を検討しました。調査は、高齢介護助手を採用している三重県内の高齢者施設を対象とした郵送調査で行われました。介護職員には、高齢介護助手を採用して良かった点と心配な点、および仕事に対する疲弊感(バーンアウト感情:高いほど、その仕事に対するバーンアウト感情が高いことを示す。以後、バーンアウト得点)を調査しました。また、高齢介護助手には仕事に対するやりがいや意識について調査しました。
調査の結果、多くの介護職員が高齢介護助手の仕事に事故などの心配をしておらず、その存在が仕事量の負担軽減につながっていることが分かりました。また、高齢介護助手が多く採用されている施設ほど介護職員の平均バーンアウト得点が低い傾向にあることが明らかとなりました。また、多くの高齢介護助手は自身の仕事が利用者のためや、介護職員の負担軽減につながっていると感じるとともに、自身の健康維持に役立っていると感じていることが明らかとなりました。
(A)各施設の平均バーンアウト得点と高齢介護助手割合の関係 各プロットは調査に参加した高齢者施設を示す。高齢介護助手の割合が高い施設ほど、介護職員の平均バーンアウト得点が低い傾向にあることがわかる。 (B)介護職員が感じている高齢介護助手採用のメリット |
日本では、2025年度には約55万人の介護人材の確保が必要であり、年間にすると約6万人の介護人材を確保する必要があることが厚生労働省の調査結果から推計されています。ここから介護人材の確保が喫緊の課題であることがわかります。本研究の結果は、高齢介護助手が介護スタッフの身体的、精神的負担感軽減に寄与する可能性を示しており、高齢介護助手の採用は、介護人材不足に対する有用な手段の一つであることを示唆しています。
従来、高齢者の地域での「社会参加・社会貢献活動」、すなわち有償・無償の生産的で社会的な役割を担う活動は、安心・安全な住みやすい地域づくりに寄与するとともに、高齢者自身の健康維持・増進に好影響を与えることがわかっています。したがって、高齢介護助手に代表される高齢期の福祉就労は、日本が抱える課題解決にもつながる、高齢介護助手自身(自分)、介護職員(介護サービス提供者:相手)、介護サービス受給者(世間)の「三方よし」の社会活動なのかもしれません。
雑誌名:BMC Health Services Research
論文タイトル:Older assistant workers in intermediate care facilities, and their influence on the physical and mental burden of elderly care staff
(老健施設で働く高齢介護助手が介護スタッフの身体的、精神的負担感に与える影響)
著者:Sakurai R, Watanabe S, Mori H, Sagara T, Murayama H, Watanabe S, Higashi K, Fujiwara Y
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