<プレスリリース>社会的孤立は、全ての世代の健康に悪影響を及ぼす 高齢者の精神的健康維持には対面接触がベスト、非対面接触のみは次善の策

発表の概要

東京都健康長寿医療センター研究所 社会参加と地域保健研究チームの藤原佳典 研究部長らの研究グループは、日頃、同居家族以外との接触がない場合(=孤立)と比べて、1)精神的健康状態の悪化を抑制するためには高齢者のみならず青壮年者においても、対面接触(直接、会うこと)および非対面接触いずれも有効である、2)非対面接触のみの場合よりも、対面接触の方が、その好影響は大きい。3)中年者では、対面接触は精神的健康状態についてではなく主観的健康感の維持・向上に有意に影響することを明らかにしました。
本研究成果は、国際オンライン誌「International Journal of Environmental Research and Public Health」に掲載されました。

研究の背景

社会的孤立(社会的接触の欠如した状態)が一般的な健康および不安感や抑うつなどの精神的な健康に関連しており、成人における死亡原因の一つであることが多くの研究で明らかになっています。社会的孤立に関する研究はいくつか行われておりますが、健康問題に関連する年齢別のエビデンスは、まだ十分ではありません。ほとんどの先行研究の参加者は高齢者であり、青壮年世代との比較に焦点を当てた研究は稀少です。
日本では、昨年2月にイギリスに次いで2番目となる「孤独・孤立対策担当大臣」が設置されましたが、社会的孤立に対処する戦略を提案するためには、社会的接触と健康関連問題の関係について、ある世代に特徴的なのか、共通性はあるのか等、三世代を調査し比較検討することが重要です。
本研究は、接触なし(NC)と比較して、対面接触(FFC)と非対面接触(NFFC)が、その後の精神的健康や主観的健康感の低下に及ぼす影響を年齢層別に明らかにすることを目的としました。

研究成果の概要

本研究では、首都圏在住の25歳以上85歳未満を対象とした2年間の縦断データを使用しました。2016年初回調査(T1)と2018年第二回調査(T2)共に回答した1751名のデータを分析しました。
本研究のアウトカム(結果)は、健康関連因子として、WHO-5精神的健康度(World Health Organization-Five Well-Being Index)(得点範囲:0~25点、13点未満を不良)および主観的健康感(自己評価による健康状態:良好vs.不良)を用いて測定しました。
社会的接触は、別居の家族・親戚・友人・隣人(すなわち、同居家族以外)と(A)FFC(直接会う対面接触)頻度、(B)NFFC(電話・メール・手紙などによる非対面接触)の頻度について尋ね、同居家族以外の誰かと週1回以上接触しているか否かで、「非対面接触の有無に拘わらず対面接触あり」(FFC)グループ、「非対面接触のみ」(NFFC)グループ、「接触なし(即ち孤立)」(NC)グループに分類し、高齢群(65-84歳)、中年群(50-64歳)、青壮年群(25-49歳)別に比較検討しました。
人口統計学的変数(年齢、性別、教育年数、生活形態、居住年数、経済的状況)を調整した上で、社会的接触の精神的健康度および主観的健康感への影響が年齢層別に異なるかを統計解析した結果、以下の関係性がみとめられました。

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(1) 高齢群は、中年群、青壮年群に比べ孤立者は統計学的に少なかった(26.1%、 37.3%、 37.9%)。
(2) NC(孤立)グループと比較した2年後の精神健康状態の低下リスクについては、高齢群のNFFCグループでは5割弱(オッズ比(OR) =0.45, 95%信頼区間(95% CI): 0.21-0.97)、FFCグループでは3割弱(OR =0.27, 95% CI: 0.14-0.51)にまで低減され、青壮年群でもFFC並びにNFFCグループ共に、5割弱に(OR =0.47, 95% CI: 0.25-0.88; OR =0.42, 95% CI: 0.23-0.74) に低減された。
(3) 上記(2)のオッズ比より、非対面接触のみの場合よりも、対面接触の方が、精神健康状態の悪化のリスクを低減させる可能性がある。
(4) 中年群では、NC(孤立)グループと比較したFFCグループは、交絡因子(属性や生活背景・習慣等)で調整後も、2年後の主観的健康感の低下リスクが3割弱に低減できた(OR = 0.28, 95% CI: 0.10-0.80)。

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研究成果の意義

これまで、高齢者における社会的孤立(社会的接触の欠如した状態)と健康の関連を分析した研究は、多数報告されています。長引くコロナ禍の影響で対面接触が制限されることによる、心身の健康への影響が危惧されます。しかし、非対面接触は対面接触を代替できるか検討した追跡研究は未だ少ない状況です。更に、世代ごとに比較した研究は本研究以外に見られません。社会的孤立状態は、高齢者のみならず、青壮年世代においても精神的健康に悪影響を及ぼします。非対面接触によってもその悪影響は緩和されましたが、高齢者では対面接触が特に有効であり、青壮年者は、対面、非対面とも同程度に有効でした。近年、LINEやZoomなどのオンラインコミュニケーションツールが普及する中で、高齢者はコロナ終息後も外出が困難となる場合を想定し、早くから上記のツールを活用することが推奨されます。青壮年者は、対面、非対面接触とも適宜、活用することが重要です。

掲載論文

・雑誌名:International Journal of Environmental Research and Public Health

・論文タイトル:Influence of "Face-to-Face Contact" and "Non-Face-to-Face Contact" on the Subsequent Decline in Self-Rated Health and Mental Health Status of Young, Middle-Aged, and Older Japanese Adults: A Two-Year Prospective Study

(若年・中年・高齢者における「対面接触」と「非対面接触」が健康度自己評価および精神的健康状態の悪化に及ぼす影響:2年間の前向き研究)

・著者:Yoshinori Fujiwara, Kumiko Nonaka, Masataka Kuraoka, Yoh Murayama, Sachiko Murayama,Yuta Nemoto, Motoki Tanaka, Hiroko Matsunaga, Koji Fujita, Hiroshi Murayama, Erika Kobayashi

プレス資料

問い合わせ先

〒173-0015 東京都板橋区栄町35-2
東京都健康長寿医療センター研究所 社会参加と地域保健研究チーム
研究員:藤田幸司、研究部長:藤原佳典
電話:03-3964-3241 内線4252
メール:fujiwayo@tmig.or.jp