Top 100 in cancer 2021に選ばれました

 老年病理学研究チーム(高齢者がん研究)の南 風花研究生(現京都大学大学院生)及び志智 優樹非常勤研究員並びに老年病態学研究チーム(心血管老化再生)の佐々木 紀彦研究員らが、2021年3月にScientific Reports誌に発表した論文 "Morphofunctional analysis of human pancreatic cancer cell lines in 2- and 3-dimensional cultures" は、当該雑誌で発表された論文の中でダウンロード回数が多かった論文としてTop 100 downloaded articles in Cancer 2021に選ばれました(第37位)。2021年にScientific Reportsに掲載された1440本以上のがん分野の論文の中で、今回の論文は3,133回ダウンロードされました(2022年4月25日現在、ダウンロード数4,161回)。

論文

・掲載論文:Scientific Reports誌
・タイトル:Morphofunctional analysis of human pancreatic cancer cell lines in 2- and 3-dimensional cultures(邦訳:2次元および3次元培養によるヒト膵臓がん細胞株の形態機能解析)
・著者:Fuuka Minami, Norihiko Sasaki, Yuuki Shichi, Fujiya Gomi, Masaki Michishita, Kozo Ohkusu-Tsukada, Masashi Toyoda, Kimimasa Takahashi, and Toshiyuki Ishiwata.
・巻号、頁:2021 Mar 24; 11(1):6775.
・URL:https://doi.org/10.1038/s41598-021-86028-1

研究の概要

 膵臓がん患者さんのがん細胞は、個人により遺伝子変異やタンパク質の発現量、細胞形態が異なっています。膵臓がん培養細胞株とがん組織の網羅的解析により、膵臓がん細胞には上皮系と間葉系の性質を持つがん細胞が存在することが報告されました(2011,Nature Med.)。この報告を基に、私達は細胞同士の接着や増殖、移動に関与する上皮系または間葉系の特徴が、平面的に培養する2次元(2D)培養と比較し、立体的に培養する3次元(3D)培養で増強されることを発見しました(2019, Scientific Reports誌、志智等)。本研究では、2Dおよび3D培養における8種類のヒト膵臓がん培養細胞株の形態学的および機能的特徴の違いを調べました。膵臓がん細胞は、2D培養では類似した形態を示しましたが、3D培養では、E-カドヘリンが多く発現する上皮系の膵臓がん細胞は、平らな被覆細胞で囲まれた小さな球形の塊(スフェア)を形成しました。逆にビメンチンが高い間葉系の膵臓がん細胞は、がん細胞がブドウの房のように連なった大型のスフェアを形成し高い増殖能を示しました。 さらに、抗がん剤のGemcitabineは上皮系の膵臓がん細胞に、nab-Paclitaxelは間葉系の膵臓がん細胞により有効であることを発見しました。

研究の意義

  • 本研究では、3D培養法により膵臓がん細胞の上皮系および間葉系の特徴が明瞭となり、抗がん剤の選択にも応用できる可能性があることを明らかにしました。
  • 約10年をかけて独自に開発した、膵臓がん細胞の浮遊細胞塊(スフェア)の走査型電子顕微鏡観察法により3D培養の詳細な形態観察が可能となりました。
  • 膵臓がん以外のがんでも3D培養による上皮系と間葉系のがん細胞の特徴解析と有効な抗がん剤の検討は可能であり、今後のがんの基礎研究に寄与することが期待されます。

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