膵臓がんの転移促進因子H19の制御機構について『Cancers』誌に発表しました。

研究成果

膵臓がんの転移促進因子H19の制御機構について『Cancers』誌に発表

内容

老年病理学研究チーム(高齢者がん研究テーマ)の石渡俊行研究部長、老年病態研究チーム(心血管老化再生医学テーマ)の佐々木紀彦係長級研究員、豊田雅士研究副部長並びに、産業技術総合研究所の平野和己研究員らは、gp130/STAT3経路が膵臓がん細胞の幹細胞性の維持、浸潤、上皮間葉転換に関与するとともに、転移に関わる長鎖非コードRNAのH19の発現を制御していることをスイスMDPI社のがん専門科学雑誌『Cancers』誌に、発表しました。

論文情報

Gp130-Mediated STAT3 Activation Contributes to the Aggressiveness of Pancreatic Cancer Through H19 Long Non-Coding RNA Expression
「Gp130を介したSTAT3の活性化は、長鎖非コードRNAのH19の発現を介して膵臓がん細胞の悪性動態に関与する」
Sasaki N, Hirano K, Shichi Y, Gomi F, Yoshimura H, Matsushita A, Toyoda M, Ishiwata T.
(佐々木紀彦、平野和己、志智優樹、五味不二也、吉村久志、松下晃、豊田雅士、石渡俊行)

発表雑誌

「Cancers」誌(2022年4月19日付け)
https://doi.org/10.3390/cancers14092055

論文概要

これまでに私達は、長鎖非コードRNAのH19が膵臓がん細胞の転移に関わることを明らかにしました(Lab Invest. 2018; Oncotarget 2019)。しかし、H19の発現制御機構は不明でした。3次元(3D)培養によって形成されたヒト膵臓がん培養細胞の細胞塊には幹細胞が多く含まれ(幹細胞様細胞)、gp130/STAT3経路が活性化していました。膵臓がん幹細胞様細胞に gp130阻害剤を添加しgp130/STAT3経路を阻害すると、増殖抑制、幹細胞マーカーやMT1-MMPの低下がみられ、がん細胞の浸潤能が抑制されました。gp130/STAT3経路は、膵臓がん幹細胞様細胞におけるトランスフォーミング増殖因子(TGF) β-受容体IIの発現を維持することにより、上皮間葉転換(EMT)に関わることが明らかになりました。さらに、gp130/STAT3経路が膵臓がん幹細胞様細胞のH19発現に関与し、クロマチン免疫沈降によりリン酸化-STAT3がH19のプロモーター領域にアクセスしてH19の転写に寄与することを解明しました。gp130/STAT3経路の阻害は、幹細胞を含む膵臓がんを標的とした新たな治療法となることが期待されます。

20220509.png