<プレスリリース>「コロナ禍の介護負担感の増加により、家族介護者のメンタルヘルス不調のリスクは1.9倍高くなる」

発表内容の概要

 新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)流行によるメンタルヘルスの不調が世界中で問題となっています。特に、コロナによって介護サービスの利用に制限が出るなど、介護をする者の負担は大きく、メンタルヘルスの問題は深刻です。村山洋史研究副部長をはじめとする研究チームは、15~79歳までの全国サンプルによるインターネット調査のデータを用い、コロナ禍に介護負担が増加した者の割合と、介護負担増加とメンタルヘルス不調との関連を調べました。この成果は、国際誌Archives of Gerontology and Geriatricsに掲載されました。

研究目的

コロナ禍の介護負担変化の実態把握と、介護負担増加とメンタルヘルス不調の関連を明らかにすること。

研究成果の概要

 2020年8~9月に実施したインターネット調査のデータ(15~79歳の全国サンプル25,482名)のうち家族等の介護をしている者(以下、家族介護者)1,920名を対象としました。メンタルヘルスはK6という心理尺度を用い、13点以上を「深刻な心理的苦痛」(メンタルヘルス不調)と判断しました。介護負担の増加は、「新型コロナウイルス流行前(2020年1月以前)と比べ、自分にとっての介護の負担が増えたと思いますか」という質問に対して、「たまに思う」「時々思う」「よく思う」「いつも思う」と回答したこととしました。
半数以上(56.7%)の家族介護者が、介護負担の増加を報告しました。また、人口学的変数、社会経済的変数、健康関連変数、介護者・被介護者関連変数の影響を統計学的に取り除いても、コロナ禍で介護負担が増加した者は、そうでない者と比べて、メンタルヘルス不調となるリスクが1.9倍高いという結果でした。また、この関連が、回答者の属性によって異なるかどうかを検討したところ、「配偶者の有無」「治療疾患の有無」「被介護者の介護度」で違いが認められました。例えば、被介護者の介護度では、認定なし、要支援1・2、要介護度1・2と介護度が上がるほどリスクが高くなっていましたが(要介護度1・2では3.8倍)、要介護度3~5では介護負担増加とメンタルヘルスの関連は見らないという結果でした。要介護度1・2の者の利用が多い通所サービス等は、コロナ禍で様々な制限を受け、コロナ前と介護の状況が変化したことが予想されます。その介護状況の変化が、家族介護者の介護負担増加とメンタルヘルスの関連に悪影響を及ぼしたと考察できます。

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研究の意義

 障がいや疾患を持ちながら地域で暮らす人々の生活には、家族等によるインフォーマルなサポートが不可欠です。既存の制度やサービスだけでは、コロナによる介護負担増加およびメンタルヘルス不調を防ぐには不十分であった可能性があります。この成果は、長引くコロナ禍において、家族介護者の介護負担軽減とメンタルヘルス不調者への対策を早急に講じる必要性を示しています。

論文情報

Nakamoto I, Murayama H, Takase M, Muto Y, Saito T, Tabuchi T. Association between increased caregiver burden and severe psychological distress for informal caregivers during the COVID-19 pandemic in Japan: A cross-sectional study. Archives of Gerontology and Geriatrics. (in press)

プレス資料

(問い合わせ先)

東京都健康長寿医療センター研究所 社会参加と地域保健研究チーム
研究副部長(テーマリーダー) 村山洋史
電話 03-6905-6781
Email:murayama@tmig.or.jp