<プレスリリース>「特定健診の無償化で受診行動は促進されるが、受診格差は拡大する」

発表内容の概要

 生活習慣病予防策として、40-74歳を対象に地域や職域で特定健康診査(以下、特定健診)が実施されています。しかし、特に市区町村の国民健康保険(以下、国保)ではその受診率は低迷しています(全国で2019年度38.0%、2020年度33.7%)。受診率向上のために、特定健診にかかる自己負担額をゼロにする「無償化施策」を取る保険者は多いものの、その受診行動への影響は学術的には検討がなされていません。
 村山洋史研究副部長をはじめとする研究チームは、神奈川県横浜市の国保受給者のデータを用い、特定健診無償化の効果を検証しました。この成果は、国際誌International Journal of Environmental Research and Public Healthに掲載されました。

研究目的

特定健診無償化による受診行動促進効果を検討すること。

研究成果の概要

 横浜市では2018年度から無償化を実施しています。実施前(2017年度)の自己負担額は、課税者(前年度の合計所得金額が一定水準以上の者)で1,200円、非課税者(同一定水準以下の者)で400円でした。
 横浜市内18区のうち、2018年度の平均所得順位が高位、中位、低位の3区を抽出し、この3区に居住する2015-18年度の国保特定健診対象者(40-74歳)を分析対象としました(男性44.8%、平均年齢61.2±10.4歳、非課税者49.6%)。4年間分のデータを解析しています(延377,660件)。解析では、特定健診受診の有無をアウトカムとし、性別、年齢、課税区分(所得の代理変数)、居住区を調整した一般化推定方程式を用いました。
 2015-18年度の横浜市国保の特定健診の受診率は、21.2%、20.2%、21.1%、24.0%でした。解析の結果、無償化実施前年度の2017年度に比べ、2015、16年度の受診行動の違いは僅かでしたが、無償化を行った2018年度は16.7%受診行動が促進されていました(=受診確率が1.167倍高まっていました;オッズ比 [95%信頼区間]=1.167 [1.149-1.185])。
 一方、年代別の推移をみると、もともと受診率が高い高齢層ほど、無償化による受診促進効果が大きいことが明らかになりました(図1)。課税区分でも同様の傾向があり、もともと受診率が高い課税者(=所得が一定水準以上の者)ほど、無償化による受診促進効果が大きいという結果でした。すなわち、無償化によって受診格差が拡大していました

202208_murayama_2.png

研究の意義

特定健診無償化は、一定の受診行動促進効果があることが示されました。しかし、無償化によって健康格差を助長してしまう可能性も明らかになりました。若年層や低所得層への受診促進策は別途検討が必要といえます。

論文情報

Murayama H, Takahashi Y, Shimada S. Effectiveness of an out-of-pocket cost removal intervention on health check attendance in Japan. Int J Environ Res Public Health 2021; 18(11): 5612.

プレス資料

(問い合わせ先)

東京都健康長寿医療センター研究所 社会参加と地域保健研究チーム
研究副部長(テーマリーダー) 村山洋史
電話 03-6905-6781 
Email: murayama@tmig.or.jp