血管平滑筋細胞の脱分化におけるガングリオシドの役割について『Frontiers in Cell and Developmental Biology』誌に発表しました。

 老年病態研究チーム(心血管老化再生医学テーマ)の佐々木紀彦係長級研究員、豊田雅士研究副部長並びに、産業技術総合研究所の平野和己主任研究員らは、血管平滑筋細胞の脱分化においてポリコーム抑制複合体2(PRC2)に依存したガングリオシドの発現制御が行われ、ガングリオシドが増殖と遊走に関わることを国際学術誌『Frontiers in Cell and Developmental Biology』誌に、発表しました。

論文情報

PRC2-dependent regulation of ganglioside expression during dedifferentiation contributes to the proliferation and migration of vascular smooth muscle cells
「血管平滑筋細胞の脱分化におけるPRC2に依存したガングリオシドの発現は、増殖と遊走に寄与する」

Sasaki N, Hirano K, Shichi Y, Itakura Y, Ishiwata T, Toyoda M.
(佐々木紀彦1、平野和己2、志智優樹3、板倉陽子1、石渡俊行3、豊田雅士1)

1 老年病態研究チーム 心血管老化再生医学
2 産業技術総合研究所
3 老年病理学研究チーム 高齢者がん

発表雑誌

「Frontiers in Cell and Developmental Biology」誌(2022年10月13日付け)

論文概要

 加齢や外的ストレスなどにより形質変換を起こし脱分化した血管平滑筋細胞は、高い遊走能と増殖性を有し、内膜の肥厚からアテローム性動脈硬化をもたらす一因となっています。スフィンゴ糖脂質の一群である細胞表面のガングリオシドは、脱分化型平滑筋細胞を含むアテローム性動脈硬化病変でその発現が示され、病態への関与が考えられていますが、血管平滑筋細胞の脱分化でのガングリオシドの発現制御と機能的関与については明らかされていませんでした。本研究においてまず、分化型ヒト血管平滑筋細胞を脱分化させると、aおよびbシリーズと呼ばれるガングリオシドの一群の発現増加がみられ、この増加には糖転移酵素であるST8SIA1が関与していることが示唆されました。次に、このST8SIA1の発現にはEZH2を含むポリコーム抑制複合体2(PRC2)が関わっていることを明らかにしました。さらにPRC2を介して増加したガングリオシドが、脱分化型血管平滑筋細胞の増殖と遊走に関与していることを明らかにしました。このように、血管平滑筋細胞の脱分化で増加し増殖と遊走に関わるガングリオシドは、細胞表面に発現していることから抗体などによる認識が容易であり、アテローム性動脈硬化を含む血管疾患の予防や治療標的として期待されます。

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