<プレスリリース>「コロナ禍による社会的孤立は改善傾向だが、孤独感は増悪:5万人への全国調査より判明」

発表内容の概要

 新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)によって人々の生活は大きく変化しました。特に、人とのつながりが制限あるいは失われることで、社会的孤立(人との接触や交流が著しく少ない状態)に陥ったり、孤独感(人との接触や交流の欠如や喪失によって生じる好ましからざる感情)を抱く人が増えたと言われています。しかし、どのような層でどの程度変化したかについて、定量的に検証した研究は少ないのが現状です。
 研究グループでは、15~79歳までの全国サンプルによるインターネット調査のデータにより、コロナ流行前と流行中の社会的孤立の変化を調べ、コロナ禍に入って社会的孤立者が大きく増加していることを明らかにしました(2021年8月19日プレスリリース)。今回、2020年と2021年に実施した同データを用い、コロナ禍1年目と2年目の社会的孤立と孤独感の変化を調べました。この成果は、国際誌Frontiers in Public Health(Impact factor: 6.461)に掲載されました。

研究目的

日本人のコロナ禍1年目と2年目の社会的孤立および孤独感の変化を明らかにすること。

研究成果の概要

 2020年8~9月と2021年9~10月に実施したインターネット調査参加者(それぞれ25,482人と28,175人)を解析しました。解析では、インターネット調査特有の回答者の偏りを取り除くため、回答に重み付けを行っています。社会的孤立は、「a.別居の家族や親戚」「b.友人・知人」それぞれとの「i.対面交流」「ii.メッセージのやり取り」「iii.音声での通話」「iv.ビデオでの通話」の頻度を尋ね、これらの合計が週1回未満であることと定義しました。孤独感は、世界的に最も使用されている孤独感測定のための心理尺度であるUCLA孤独感尺度(3項目版)を用いました(得点範囲:3-12点;得点が高いほど孤独感が強い)。
 全体では社会的孤立者割合は、コロナ禍1年目27.4%2年目は22.7%であり、その減少幅は4.7ポイント(95%信頼区間:−6.3, −3.1でした。孤独感に関しては、コロナ禍1年目5.03点、2年目は5.86点で、0.83点(95%信頼区間:0.66, 1.00)増加していました。つまり、コロナ2年目にかけて社会的孤立は改善しているものの、孤独感は増悪していることが分かりました。社会的孤立の改善には、ワクチン接種の広がりや感染予防行動が浸透してきたため、外出や人との交流が戻っていることを表しています。一方、孤独感に関しては、長期に亘り様々な制約が強いられたことによる、いわゆる「コロナ疲れ」(COVID-19-related psychological fatigue)が生じているものと解釈できます。

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 図は1年目、2年目それぞれの社会的孤立、孤独感の年齢別分布です。10代、20代といった若い年代は特徴的な推移をしています。まず、1年目には、社会的孤立の割合は低いものの、孤独感は著しく高いものでした。「SNSネイティブ」の若い世代では、コロナ禍でもオンライン(SNS等)によって人とのつながりが比較的保てていたものの、顔が見えないこのつながりは「細くもろい」ものです。つまり、オンラインでのつながりだけでは、「友人、上司・同僚に深い相談ができない」「表面的なやりとりしかできない」等の弊害が生まれ、結果として孤独感が高かったと考えられます。ただし、2年目には、高かった孤独感は他の年代と同等に落ち着いています。徐々に日常生活が戻ってきたことにより、1年目ほどの孤独感を感じる人は少なくなったと言えそうです。

研究の意義

 未曾有のパンデミックは、私たちが持つ人とのつながりや心の健康を蝕みました。将来の予期せぬパンデミックに向け、社会的孤立や孤独の推移を定量的に記録しておくことは大きな意味があります。
 また、人間は、SNS等によるつながりで孤立状態を回避できたとしても、必ずしも孤独を回避できるわけではないことも分かりました。今後の社会のデジタル化に向けた大切な知見と言えます。

論文情報

Murayama H, Suda T, Nakamoto I, Shinozaki T, Tabuchi T. (2023). Changes in social isolation and loneliness prevalence during the COVID-19 pandemic in Japan: The JACSIS 2020-2021 study. Frontiers in Public Health, 11:1094340.

https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fpubh.2023.1094340/

プレス資料

(問い合わせ先)

東京都健康長寿医療センター研究所 社会参加と地域保健研究チーム
研究副部長(テーマリーダー) 村山洋史
電話 03-6905-6781
Email: murayama@tmig.or.jp