東京都健康長寿医療センター研究所 社会参加とヘルシーエイジング研究チームの村山洋史 研究副部長らの研究グループは、2014年より兵庫県養父市にて健康寿命の延伸を目的としたアクションリサーチ※1を行ってきました。その中で、「身近な場所に誰もが継続して参加できる、フレイル予防を目的とした"通いの場"を開設する」という目標を掲げ、実現に向け課題となった担い手不足を解決するために、「研修を受けたシルバー人材センターの会員が仕事として対価を得ながら各地区に出張し、一定期間教室を運営した後、地域住民による自主運営へとつなげる」という仕組みを考え実践してきました。
同モデルを取組開始後3年および5年に検証した結果、社会的影響力の大きさを示す3つの要素(広がり、効果、継続性)で有用性が確認されました。一連の研究成果は、それぞれ国内紙「日本公衆衛生雑誌」および国際誌「Preventive Medicine」にて出版されました。
※1 社会問題の解決に向けて研究者と行政や地域住民等が共同して行う実践研究
図1 本研究の概要イメージ図
これまでの研究から、フレイル予防に有効な手段は「栄養」「体力」「社会参加」に集約されると考えられており、これらに一定期間働きかけることでフレイルが改善することが複数の研究により示されています。しかし、いずれも実験的な環境下での成果であり、実際の地域社会の中でフレイルを予防し、さらには、その後の介護予防につなげるための環境整備をいかに行うかについては、いまだ不明確な部分が多い状況です。このような背景から、当研究チームでは、上記アクションリサーチに取り組んできました。
3年後の評価(掲載論文1)
取組開始から3年間で154行政区中36地区(23.4%)に通いの場が開設され※2、開設地区に住む高齢者の32.8%が参加しました。また、開設された通いの場のうち96.2%が住民による自主運営につながりました。これらのことから、「非専門家であるシルバー人材センターの会員が仕事として通いの場を立ち上げ・運営し、その後住民による自主運営につなげる」という同モデルの有用性が示唆されました。
そこで、次に、2012年と2017年に実施した両郵送調査に回答した65歳以上の男女4249名のデータを用いて、通いの場の効果を検証しました。参加者と非参加者の生活習慣等の違いをマッチングという手法を用いて両者の5年間の変化を比較した結果、参加者では運動が習慣化され、食品摂取の多様性が向上したこと、フレイルのリスクが約50%抑制されたことが示されました(図2)。
※2 令和4年10月現在時点で154行政区中93地区(60.4%)
図2 フレイルの割合の変化
5年後の評価 (掲載論文2)
さらに、2012年の郵送調査の回答者を介護保険情報をもとに6.8年間(取組開始後4.8年間)追跡し、通いの場への参加と新規要支援・要介護認定との関係を分析しました。参加者と非参加者の生活習慣等の違いを複数の方法で調整した結果、いずれの方法においても、参加者では非参加者に比べ、介護予防への好影響(要支援・要介護認定のリスクが約50%抑制されたこと)が明示されました。特に75歳以上で著しいリスクの減少が認められました(図3)。
図3 参加の有無別にみた要支援・要介護認定のリスク
本研究により、他地域でも展開可能な住民主体のフレイル予防さらには介護予防のモデルが提示され、その有用性が示されました。現在、当研究チームでは、埼玉県シルバー人材センター連合と協働し、県内での普及・展開をめざし取り組んでいます。
・雑誌名:日本公衆衛生雑誌
・論文タイトル:兵庫県養父市におけるシルバー人材センターを機軸としたフレイル予防施策のプロセス評価およびアウトカム評価
・著者:野藤 悠, 清野 諭, 村山 洋史, 吉田 由佳, 谷垣 知美, 横山 友里, 成田 美紀, 西 真理子, 中村 正和, 北村 明彦, 新開 省二
・雑誌名:Preventive Medicine
・論文タイトル:Effects of community-based frailty-preventing intervention on all-cause and cause-specific functional disability in older adults living in rural Japan: A propensity score analysis(日本の農村部におけるフレイル予防を目的とした地域介入が全原因および原因別要介護認定に及ぼす影響:傾向スコア分析)
・著者:Yu Nofuji, Satoshi Seino, Takumi Abe, Yuri Yokoyama, Miki Narita, Hiroshi Murayama, Shoji Shinkai, Akihiko Kitamura, Yoshinori Fujiwara
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