<プレスリリース>「地域在住日本人高齢者の血液中GDF15濃度と総死亡リスクの関連を解明」

発表内容の概要

 血液中のgrowth differentiation factor 15 (GDF15) タンパク質は、加齢に伴い増加することが知られており、血中GDF15濃度が高い高齢者は、死亡リスクが高いことが海外の研究で報告されていました。しかしながら、日本人高齢者の死亡リスクと血中GDF15濃度との関連は不明でした。今回、東京都健康長寿医療センター研究所の藤田泰典研究員、新開省二研究員、大澤郁朗研究副部長らの研究グループは、地域在住日本人高齢者を対象とした研究を行い、血中GDF15濃度が高いほど総死亡リスクが高く、そのリスク上昇に関係する要因の1つとして腎臓の機能低下が挙げられることを明らかにしました。本研究は、米国の老年学専門学術誌「Journal of Gerontology: Medical Sciences」に516日に発表されます。

研究目的

 私たちは、細胞内小器官の1つであるミトコンドリアの基礎研究から、ミトコンドリアに機能障害が起こると細胞からGDF15タンパク質が多量に分泌されることを発見し、遺伝性疾患であるミトコンドリア病の診断マーカーとして実用化してきました。一方、ミトコンドリア機能障害は、老化や老化関連疾患と密接に関係することから、血中GDF15濃度は高齢者の健康状態と関連する可能性が考えられました。実際に海外では、高齢者の血中GDF15濃度が死亡をはじめとする負の健康アウトカムと関連することが報告されていましたが、日本人高齢者を対象とした研究は限られていました。そこで本研究では、地域在住の日本人高齢者における血中GDF15濃度の臨床疫学的意義の解明を目的としました。

研究成果の概要

 群馬県草津町または埼玉県鳩山町に在住の65歳以上の高齢者1,801人を対象に、血液中のGDF15濃度の測定ならびに5.7年間(中央値)の追跡調査を実施しました。対象者を血中GDF15濃度に基づいて4群(最低値群、低値群、高値群、最高値群)に分け、総死亡リスクを分析したところ、GDF15最高値群の死亡リスクは、最低値群よりも5.03倍高く、社会人口学的変数(年齢、性別、地域、学歴)と臨床的に重要な変数(既往歴、血液検査数値、老齢期うつ病評価度、認知機能評価スコア)で調整した場合でも1.98倍高いことが分かりました。そして、この死亡リスクは、腎臓機能の指標であるシスタチンCまたはβ2-ミクログロブリンの追加調整により、統計的な有意水準が消失しました。これらの結果から、血中GDF15濃度が高い高齢者は死亡リスクが高いことが明らかとなり、そのリスク上昇には腎臓の機能低下が一部関与している可能性が示されました。

研究の意義

 今回の研究により、地域在住の日本人においても、血中GDF15濃度が高い高齢者は死亡リスクが高いことが明らかとなりました。健康寿命の延伸には、高齢者の健康リスクを正確に評価し、適切な介入に繋げるシステムが不可欠です。血中GDF15は健康リスクの新たな指標となる可能性があり、今後のさらなる知見の蓄積が必要だと考えられます。一方、本研究により、血中GDF15濃度が高い高齢者における死亡リスクの背景要因として、腎臓の機能低下が潜在している可能性が考えられました。この腎臓の機能低下にはミトコンドリア機能障害が関与していることも予想されます。これらの知見・仮説に基づいた基礎研究の推進は、老化や老化関連疾患のメカニズム解明の一助となることが期待されます。


掲載論文情報

【掲載学術誌】
Journal of Gerontology: Medical Sciences

【掲載論文の標題・著者】
Association between serum GDF15 concentration and total mortality in community-dwelling
Japanese older populations: The involvement of renal dysfunction
地域在住日本人高齢者における血清中GDF15濃度と総死亡の関連:腎機能低下の関与

藤田泰典1、新開省二2, 3、谷口優4、三浦ゆり5、田中雅嗣6、大澤郁朗1、北村明彦3, 7、伊藤雅史1
(共同筆頭著者:藤田泰典、新開省二、谷口優; 共同責任著者:藤田泰典、新開省二)

1東京都健康長寿医療センター研究所・老化制御研究チーム
2女子栄養大学・栄養学部
3東京都健康長寿医療センター研究所・社会参加と地域保健研究チーム
4国立環境研究所・環境リスク・健康領域
5東京都健康長寿医療センター研究所・老化機構研究チーム
6順天堂大学・大学院医学研究科
7八尾市保健所・健康まちづくり科学センター

プレス発表.pdf

(問い合わせ先)
東京都健康長寿医療センター研究所
老化制御研究チーム・生体調節機能
研究員:藤田泰典、研究副部長:大澤郁朗
電話 03-3964-1141 内線4316
Email: yfujita@tmig.or.jp