<プレスリリース>自治体の健診で使われている「後期高齢者の質問票」はその12項目でフレイルの識別が可能

発表内容の概要

 東京都健康長寿医療センター研究所・福祉と生活ケア研究チームの石崎達郎研究部長らの研究グループは、大阪大学や慶応義塾大学らと共同研究で実施している「SONIC研究」で収集したデータを分析し、「後期高齢者の質問票」(15項目)に含まれる「フレイル関連12項目」について、健康リスクがあると考えられる回答が4項目以上あるとフレイルの可能性があることを明らかにしました。この研究成果は国際学術誌「Geriatrics & Gerontology International」に掲載されました。

研究の背景

 全国の自治体が実施する後期高齢者を対象とする健康診査(以下、健診)では、2019年度までは「標準的な質問票」を使ってメタボリック症候群に関連する生活習慣が把握されていました。しかしこの質問票では、高齢者に特徴的なフレイル等の健康課題を把握できません。そこで厚生労働省は2019年3月に後期高齢者の健診で使用する「後期高齢者の質問票」を策定し、2020年4月から全国の自治体で順次使用されています。
 この質問票は高齢者の健康状態を総合的に評価することを目的に、15項目で構成されています(表1)。石崎研究部長は厚生労働省の検討会メンバーとして質問票の開発と活用方法の検討に関与しましたが、策定当初はこの質問票で得られた回答一つ一つについて、健診の事後指導を行うことが想定されていました。しかし、高齢者の保健事業を担当する医療専門職はとても多忙であることから、「この質問票を点数化して健康課題を抱えるハイリスク者の選別ができないものか」という要望が寄せられていました。

表1 後期高齢者の質問票(黄色の質問は「フレイル関連12項目」、回答の灰色部分は「健康リスクあり」と考えられる回答)


 そこで石崎研究部長らは「後期高齢者の質問票」の尺度化の可能性を検討しました。2020年に実施した「SONIC研究」の郵送調査で得られたデータ(分析者数1576名、平均年齢85.7歳、女性52.9%)を使ってフレイルに関する構成概念妥当性を検証しました。図1に示すように、全15項目のうちの12項目を「フレイル関連12項目」と名付け、5領域(①運動機能(問7、8、9、13)、②栄養状態(問3、6)、③口腔機能(問4、5)、④認知機能(問10、11)、⑤社会的側面(問14、15))で構成される分析モデルを構築しました。確認的因子分析の結果、この分析モデルの適合度は良好で、「フレイル関連12項目」は統計的に独立した領域と解釈でき、その合計得点をフレイルの指標として利用できることを報告しました(文献1)。

図1 確認的因子分析による後期高齢者の質問票「フレイル関連12項目」の構成概念妥当性の検証(数値は因子負荷量)

文献1:Ishizaki T, Masui Y, Nakagawa T, Yoshida Y, Ishioka YL, Hori N, Inagaki H, Ito K, Ogawa M, Kabayama M, Kamide K, Ikebe K, Arai Y, Gondo Y. Construct Validity of a New Health Assessment Questionnaire for the National Screening Program of Older Adults in Japan: The SONIC Study. International Journal of Environmental Research and Public Health. 2022;19:10330.

研究成果の概要

 今回の研究は、この「フレイル関連12項目」がどの程度の確からしさでフレイルを識別できるのか検討することを目的としており、フレイルの至適基準には日本語版CHS(J-CHS)基準を使用しました。
 分析対象者は「SONIC研究」の2019年の会場調査参加者のうち、2020年の郵送調査で「後期高齢者の質問票」に回答した461名(平均年齢79.7歳、男性50.9%)です。表1に示す質問票の黄色の「フレイル関連12項目」について、灰色の回答項目数(点数)を計算しました(12点満点)。
 J-CHS基準で判定したフレイルの状態別に、「フレイル関連12項目」の点数を比較したところ(図2)、フレイル判定の3群では、健常(ロバスト)群(中央値1点)、プレフレイル群(中央値2点)、フレイル群(中央値4点)と、三群間で中央値は有意に異なっていました(P<0.001)。

図2 J-CHS基準で判定したフレイルの程度別にみた後期高齢者の質問票「フレイル関連12項目」の点数分布

 J-CHS基準で判定したフレイルを至適基準に使用し、「フレイル関連12項目」のフレイルの識別能を評価しました。図3に示すように「フレイル関連12項目」の点数はJ-CHS基準で判定されたフレイルを中等度の確からしさ(c統計量:0.79、95%信頼区間:0.73-0.85、p<0.001)で識別可能でした。そして点数が4点以上の場合にフレイルを識別できることが示され(分析対象者461人のうち4点以上の割合は19.5%)、その精度は、感度55.8%、特異度85.8%でした。

図3 後期高齢者の質問票「フレイル関連12項目」によるフレイルの判別能(ROC分析)

研究の意義

 今回の研究で使用した「後期高齢者の質問票」は令和5年4月末時点で、全国の自治体の94.0%(1,639区市町村)で使用されています(厚生労働省調べ)。この問診票の「フレイル関連12項目」の点数で、フレイルのハイリスク者を簡便に把握できることは、地域における高齢者のフレイル評価に有用です。具体的には、高齢者の健康政策の目玉である「後期高齢者の保健事業と介護予防の一体的な実施」において、区市町村が個別的支援を実施する際の対象者抽出や支援後の評価、更には、通いの場等の参加者を対象とするフレイル評価のツールとして有用です。

 掲載誌:Geriatrics & Gerontology International、2023年第23巻(第6号)437~443ページ
 論文掲載URL:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/ggi.14585
 原題:「Criterion validity of the health assessment questionnaire for the national screening program for older adults in Japan: the SONIC study」
 邦訳:日本における高齢者を対象とした健康診査で使用される健康評価質問票の基準妥当性:SONIC研究
 著者:堀紀子1、石崎達郎1*、増井幸恵1、吉田祐子1、稲垣宏樹1、井藤佳恵1、石岡良子2、中川威3、小川まどか4、樺山舞5、神出計5、池邉一典6、新井康通7、権藤恭之4
 1:東京都健康長寿医療センター研究所、2:O.P. Jindal Global University、3:国立長寿医療研究センター研究所、4:大阪大学大学院人間科学研究科、5:大阪大学大学院医学系研究科、6:大阪大学大学院歯学研究科、7:慶應義塾大学医学部百寿総合研究センター
(*:責任著者)

※本研究は厚生労働省が実施する厚生労働行政推進調査事業費補助金の一部として実施されました。

プレス発表.pdf

(問い合わせ先)
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東京都健康長寿医療センター研究所 福祉と生活ケア研究チーム(医療・介護システム研究)
研究部長 石崎達郎
電話 03-3964-3241(内線4226)