<プレスリリース>「ペット飼育と認知症発症リスク」犬の飼育を通じた運動習慣や社会との繋がりにより認知症の発症リスクが低下することが初めて明らかに

発表内容の概要

 高齢者の健康増進、健康長寿の実現を目指す地方独立行政法人 東京都健康長寿医療センター(所在地:東京都板橋区/理事長:鳥羽 研二)は、社会参加と地域保健研究チームの「ペット飼育と認知症発症リスク」に関する研究論文を、科学誌「Preventive Medicine Reports」に10月11日に発表したことをお知らせします。ペット飼育と認知症発症との関連性を明らかにした発表は、本邦が初めてとなります。

研究目的

 社会参加とヘルシーエイジング研究チームは、これまでの研究から、犬を飼育する高齢者ではフレイルや自立喪失※1が発生するリスク※2が大幅に低いことを報告しています。また、犬の飼育者のうち、運動習慣を持つ高齢者において、負の健康事象が発生するリスクが低いことが確認されています。本研究では、フレイルや自立喪失、運動習慣と強く関連する認知症に着目し、ペットの飼育が認知症(要介護認知症※3)の発症と関連するのかどうかを調べました。

研究の意義

 本研究から、犬の飼育者では、非飼育者に比べて認知症が発症するリスクが40%低いことが示されました。また、犬飼育者のうち、運動習慣を有する人、社会的孤立状態にない人において認知症発症リスクが低下することが明らかになりました。一方で、猫の飼育者と非飼育者との間には、意味のある認知症発症リスクの差はみられませんでした。日常的に犬を世話することによる飼育者への身体活動や社会参加の維持が、飼育者自身の認知症発症リスクを低下させていることが考えられます。

犬の飼育及び運動習慣の有無別にみた認知症発症オッズ比。

研究成果の概要

 本研究では、2016年に東京都A区での疫学調査に応答した11,194名の調査データを使用しました。研究対象者の平均年齢は74.2歳、女性の割合は51.5%でした。本研究対象集団における犬の飼育率は8.6%、猫の飼育率は6.3%で、2020年までの介護保険情報に基づく要介護認知症の新規発症率は5.0%でした。犬の飼育者と猫の飼育者のそれぞれの社会医学的特徴から傾向スコアを算出し、逆確率重み付け回帰分析によりペット飼育者の認知症発症リスクを調べた結果、犬非飼育者に対する飼育群の認知症発症オッズ比は0.60、猫非飼育者に対する飼育群のオッズ比は0.98でした。犬の飼育と運動習慣または社会的孤立との組み合わせ別に認知症発症リスクを調べた結果、犬飼育かつ運動習慣有の群、犬飼育かつ社会的孤立無の群のリスクが有意に低いことが明らかになりました。

掲載論文

掲載誌:科学誌「Preventive Medicine Reports」
論文掲載URL:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S221133552300356X
原題:「Protective effects of dog ownership against the onset of disabling dementia in older community-dwelling Japanese: a longitudinal study」
和訳:地域在住日本人高齢者における犬の飼育の認知症予防効果
※1 自立喪失・・要介護認定及び総死亡
※2 リスク・・一定の期間で事象が発生する確率
※3 要介護認知症・・要介護認定における認知症高齢者の日常生活自立度に基づく定義

プレス資料

地方独立行政法人 東京都健康長寿医療センターについて

東京都健康長寿医療センターは、明治5年に設立された養育院を前身としています。渋沢栄一翁は養育院の初代院長であり福祉・医療事業の維持・発展に尽力されました。平成21年東京都老人医療センターと東京都老人総合研究所が一体化し、地方独立行政法人となり高齢者医療のパイオニア・老年学研究の拠点として高齢者の心身の特性に応じた適切な医療の提供、臨床と研究の連携、高齢者のQOLを維持・向上させるための研究を通じて、高齢者の健康増進、健康長寿の実現を目指し活発な診療・研究活動を展開しています。

設立:平成21年4月 1日
理事長:鳥羽 研二
所在地:〒173-0015 東京都板橋区栄町35番2号
病院:03-3964-1141 (代表電話)
研究所:03-3964-3241 (代表電話)
公式HP:https://www.tmghig.jp/

本研究に関するお問い合わせ先

地方独立行政法人 東京都健康長寿医療センター
社会参加とヘルシーエイジング研究チーム 谷口優(協力研究員)、藤原佳典
TEL03-3964-3241 内線4247  Mailtaniguchi.yu@nies.go.jp